A-cars Historic Car Archives #068

'97 Ford Mustang Cobra

97年型フォード・マスタング・コブラ


Text : Akihiko Moriya(A-cars)Photo : Seiji Okada

(Mustang Book/2010 Oct.)

 Jul. 17, 2025 Upload

 

 1984年から86年型まで設定されていたSVO(スペシャル・ヴィークル・オペレーション)の流れを汲むSVT(スペシャル・ヴィークル・チーム)コブラが、初めてマスタングに設定されたのは93年型でのこと。それはつまり第3世代のファイナル・モデルイヤーだったのだが、フルモデルチェンジを受けた94年型にもこのSVTコブラは引き継がれ、そのまま第4世代を通して(コブラRのみの設定となった年もあるが……)スペシャル・ハイパフォーマンス・マスタングとして存在感を放っていた。

 そのSVTコブラに最初の大きな変化が訪れたのは96年型でのこと。レギュラーのマスタングGTに搭載されるエンジンが4.6リットルV8に変更されたことに伴い、コブラのエンジンも4.6リットルV8に変更。95年型までのコブラ用5.0リットルV8が240hpだったのに対して、96年型コブラでは一気に305hpまで出力がアップされたのだ。そして、撮影車である97年型コブラも96年型と同一スペックとなる。

 このコブラ用4.6リットルV8とレギュラーのマスタングが搭載する4.6リットルV8(97年型では最高出力215hp)では構成するパーツが100点以上も異なっているが、端的に異なる部分はバルブトレイン。レギュラー・モデルがSOHCであるのに対して、コブラはDOHCとなっていた。

 

 

 このコブラ用4.6リットルV8DOHC32バルブ・ユニットの最大の特徴は可変バルブ機構を採用していたことで、これは1気筒あたり2個備わる吸気バルブのひとつを低速時に閉鎖して低速トルクを確保するというものだった。それから時は流れ、2011年型マスタングにおいてはレギュラー・モデルの5.0リットルV8でも可変バルブタイミング機構(Ti-VCT)が備わり、吸気のみならず排気バルブも制御するようになっているが、97年当時としては充分以上の先端技術であり、多くのパフォーマンス・フリークを納得させるものだった。実際、日本にも96年型コブラが150台限定で導入されたが、引き続き97年型でもコブラが導入されており、当時日本でも多くのファンがコブラを支持していたことを窺い知ることができる。

 このコブラのエンジンに組み合わせられたのは、ボルグワーナーのT45・5速マニュアル・トランスミッションのみ。これを操るクランクしたシフトレバーはコブラ特有の独特な装備であり、締まった足まわりの感触やシャープなステアリング・フィールなどとともに、コックピットに座ったドライバーに特別なモデルをドライブしていることを強く印象付けた。

 フェンダー、そしてエンジンの上面で牙を剥くコブラのエンブレム。ホイールのスポークの間から覗くブレーキ・キャリパーに入ったCOBRAの文字……。マスタングの歴史の中で、常に特別な存在だったコブラ。その存在意義は、この97年型でも変わらない。コブラの名前に新たな輝きを与え、後の時代のマスタングにしっかりと伝統を繋いだのである。

 


搭載エンジンは4.6リットルV8DOHC。最高出力305hp@5800rpm、最大トルク300lbft@4800rpm。同年型のマスタングGT(4.6リットルV8SOHC)に対して90hpという大きなアドバンテージを得ていた。


コブラ専用の17インチ・5スポーク・ホイール。スポークの間から覗くキャリパーにCOBRAの文字が見える。タイヤサイズは245/45ZR17。なお、コブラ・エンブレムの下に備わるサイドマーカーは日本仕様ならではのものだ。


インテリアに関してはGTなどと比較しても極端な違いは見られないが、途中がクランクしてドライバー側に伸びるコブラ独特のシフトレバーが特徴的。このほか、ホワイト地のゲージもコブラならではのものだ。