A-cars Historic Car Archives #065
'72 Plymouth Duster 340
72年型プリマス・ダスター340
Text & Photo : James Maxwell
(Muscle Car Review/2010 Apt. Issue)
Jun. 27, 2025 Upload
プリマスから70年型ダスターおよびダスター340が発表されたのは69年8月31日のこと。69年型までのダートやバリアント、バラクーダなどと同じコンパクトなAボディ・プラットフォームをベースとするこのNEWモデルは、スポーティさを強調した美しい2ドア・クーペのボディを持ち、その美しいスタイリングにひと目惚れした人間も少なくなかった。
ベースモデルであるダスターが標準搭載したエンジンは“スラント・シックス”と呼ばれるエコノミーな直列6気筒で、オプションで318cuinV8が用意されていた。ボディサイドには“ダスター(=相手に塵を浴びせる者)”という名前を象徴する竜巻のカートゥーンが与えられたが、さすがにこんな名前を与えたモデルだけに、当初からマッスルカー・フリークのことも考慮されていた。そしてパフォーマンスを望むカスタマーのために用意されたのが、“ミニ・マッスルカー”などとも呼ばれるダスター340である。こちらの搭載エンジンはその名のとおり340cuinV8。高回転型で275馬力を発するそのポテンシャルは、全米のマッスルカー・エンスージアストたちを納得させるものだった。
同時代の並居るハイパフォーマンス・ビッグブロックの陰に隠れて軽視されがちだが、実はこの340はかなりスペックの高いエンジンである。圧縮比10.5:1のピストン、鍛造クランク、ダブルローラー・タイミングチェーン、高回転用バルブスプリングなどが組み込まれ、デュアルポイント・ディストリビューター、さらにはハイスペック・インテーク&カーター製4バレル・キャブレターなどを組み合わせ、5000rpmで最高出力を発生する仕様となっていたのである。ちなみにストロークは318と同じで、318の3.91インチボアに対して、340は4.04インチボアとなっている。ただ注意してもらいたいのは、この340が単に318のオーバーボアではないということだ。340は“LA”モーターとして区別されるMOPARのハイパフォーマンス・エンジンであり、318とは全く異なるものなのだ。
話をダスター340に戻そう。サイド・ストライプとブラックアウト・グリルが特徴だったダスター340だが、このほかににE70×14 のファイバーグラス・ベルテッド・タイヤ、5.5インチ幅のラリーホイール、フロント・スウェイバー(0.87インチ径)、HD(=ヘビーデューティ)・ショックアブソーバー、HDトーションバー&リーフスプリング(6枚リーフ)、そしてフロント・ディスクブレーキといった装備も340ならではのものだった。ちなみに340のダッシュまわりには69年型までのバラクーダ用パーツが流用された。また、トランスミッションは3MTが標準で、オプションとしてATと4MTが設定されていた。
新車価格が僅か2547ドルというダスター340がこれだけのスペックを持っていることに多くのファンが驚かされた。なにより、前記の内容はあくまでも標準装備なのである。スープアップを施すことでさらなるパワーを引き出せるだけのポテンシャルを持っていることは明らかだった。当時、カーライフ誌が行ったテストでは、ストックの70年型ダスター340が0-60mphで6.2秒、クォーターマイルでは14.72秒@94.24mphという数値をマークしている。そして70年型としてデビューしたダスター340は2万1799台が生産され、全米各地のストリート・レースなどで様々なマッスルカーを餌食にした。
翌71年型のダスター340で最も目立つ変更点は、縦格子のフロントグリルの採用だろう。サイドストライプのデザインも変更され、クォーターパネルのリア側に“340”のマーキングが与えられている。また、新オプションとしてブラックアウト・フードが追加され、これをオーダーするとフードのドライバー側に“340WEDGE” というマーキングが与えられた。このほかでは、70年型では標準装備とされていたディスクブレーキとラリーホイールが、この71年型からオプションに変更されている。
エンジンではキャブレターが唯一の変更点。70年型ではカーターAVSが採用されていたが、この71年型では新たにデザインされた“サーモクワッド”というカーター製4バレルに変更されている。なお、パワーの方は275hp@5000rpmで変わりはない。スーパーストック&ドラッグ・イラストレイテッド誌が行った71年型ダスター340のテストでは、クォーターマイルで14.20秒というタイムをマーク(テスト車両は3.91リアエンド)。同じ車両を使ってストリート&スーパーカー誌が行ったテストでは13.94秒@104.89mphという数値を残している。
翌72年モデルでもダスター340はリリースされたが、残念ながらこの年から強化された排ガス規制の打撃を受けてしまった。10.5:1だった圧縮比は8.5:1まで落とされ、シリンダーヘッドもそれまで使用されてきた340専用から318用に変更されたのである。キャブレターそのものは変更されなかったものの、ジェット・セッティングは大幅に変更されている。カー&ドライバー誌が行った72年型ダスター340のパフォーマンス・テストでも、クォーターマイル・タイム15.6秒@86mphと、残念なくらいに数値を落している。
今回ご紹介しているダスター340は、その72年型。新車の状態からレストアなどを一切施していない“サバイバー”である。オドメーターが表示する実走行距離は6万4000マイル。選択しているオプションは、4速MT、バイナルトップ、ブラックアウト・フード、ラリーホイール、E70×14グッドイヤー・ポリグラス・タイヤ、バンパーガード、ポジトラクション、リモート・サイドミラー(ドライバー側のみ)、AMラジオ、パワーブレーキ(ドラム)、バケットシートなどである。ボディカラーはカラーコード・FE5のラリーレッドで、もちろんリペイントなどは一切行われていない。レース向けの改造などが一切されず、ここまでフルオリジナルの姿を保っているダスター340が、果たしてこの世に何台残っているのだろうか?
MOPARマッスル=HEMIと信じる者も多い。だが実際にはダスター340のようなメジャー・マッスルカーに引けを取らないスモールブロックを搭載したMOPARも存在したのである。マッスルカーのファンには、そんな事実もぜひ記憶しておいてもらいたい。
7インチ径の丸形ヘッドライトの採用でクリーンかつシンプルなイメージに仕上げられたフロントマスク。スタンダードのダスターがバリアントとグリルを共有するのに対し、ダスター340にはこのような縦格子のグリルが与えられ区別された。ちなみに71~72年型のダスター“ツイスター”にもこれと同じ縦格子のグリルが与えられた。
取材車のブラックアウトされたエンジンフードは、オプションコードV21のパフォーマンス・フード・ペイント。当時18.35ドルで用意されていたこのオプションは非常に人気が高かった。
ベルトラインに沿って入れられたサイドストライプに340のマーキングが入ることで、ベースモデルとの違いをアピールしている。
クロームのデュアル・テールパイプはダスター340ならではの装備。バンパーガードは当時14.5ドルで用意されていたオプション。
当時のものとは思えない輝きを見せるラリーホイールは当時55.90ドルのオプション(コードW21)。それに組み合わされるグッドイヤー・ポリグラス・タイヤ(E70×14)も39.5ドルのオプションだった。
71年型まではハイパフォーマンス向けのバルブトレインが組み込まれた専用ヘッドが装備されていた340エンジンだが、72年型では排ガス規制に沿うために大衆車向けの318と共通のヘッドに変更され、圧縮比の低下(10.5:1から8.5:1にダウン)、キャブレターのジェット変更、点火タイミングの変更などによりその出力は大幅に低下。規制後の340のスペックは最高出力240hp@4800rpm、最大トルク290lbft@3600rpm(ともにNET数値)となっている。
こちらはカーターの“Thermo-Quad”キャブレター。1969年にアフターマーケット・パーツとして販売が開始されたもので、当初は850cfmと1000cfmの2サイズが存在していた。ベンチュリーにはスプレッド・ボアと呼ばれる空気抵抗の少ないデザインを採用。センターセクションのマテリアルには熱対策としてプラスチックが用いられ、これはベーパーロックを防ぐ効果も狙っていたと見られる。71年型からダスター340に標準装備されたThermo-Quadは750~800cfmだったと言われている。
バイナル・バケットシートとTuffステアリングはオプション・アイテム。さらに取材車はコードD21の4MTを選択しており、ハーストシフターが組み合わされている。グローブボックスの中にはオーナーズマニュアルとオプション・データカードが収められており、取材車の選択しているオプションも明らかである。