A-cars Historic Car Archives #062
'66 Pontiac Grand Prix
66年型ポンテアック・グランプリ
Text & Photo : よしおか和
(Pontiac Classics/2009 Aug. Issue)
Jun. 5, 2025 Upload
GMの経営再建に伴いブランドの消滅が決まったポンテアック。それは元々、デトロイト周辺でいちばんの勢力を誇っていたネイティブ・アメリカンの酋長の名であり、その名を採用していた馬車用キャリッジメーカーがオークランド・モーターに発展したのは20世紀初頭のことだった。そのオークランドが1909年にGMに買収され、最初のポンテアック車が登場したのは26年のこと。以来、独立したひとつのディビジョンとして、革新的でドラマチックなモデルを生み出してきたポンテアックだが、その長きに渡る歴史の中でリリースされたクルマの中には名車と讃えられるものが少なくない。
今月のこのコーナーでは去り行くポンテアック・ブランドにレクイエムを捧げる意味で、そんな名車の中から1台をセレクトしてみた。マッスルカーを語る上では外すことの出来ないGTO、カマロの兄弟分という存在を超えた個性を持つファイアーバードなどいろいろ迷ったが、GMで最初に作られたスペシャリティ・クーペという事実に敬意を払って選んだのはグランプリ。そのデビューは62年型だが、今回は個人的に歴代のモデルで最もフォルムが美しいと思っている66年型を撮影するチャンスに恵まれて感謝している。
さて、60年代半ばのポンテアック車の特徴と言えば、いちばんに思いつくのが縦型4灯式のヘッドライト。俗に「タテ目」と呼ばれるヤツである。改めて当時のカタログを紐解いてみると、65年型と66年型に関しては、ポンテアックのすべてのモデルがこのタテ目を採用している。一見するとどのモデルも非常に良く似ているのだが、細かく観察してみるとそれぞれに違いがあり、それが特徴となっていることに気付く。
66年型を例にひとつひとつ見ていくと、まずフルサイズ・パッセンジャーカーのいちばんベーシックなシリーズだったのがカタリナで、すべてのボディスタイルをラインナップしていた。ホイールベースは121インチで、カタリナ2+2と呼ばれるスポーティ・モデルも存在した。
カタリナと同じマスクでホイールベースが124インチまで延長されたデラックス・バージョンがスターチーフ。こちらは4ドアのセダンとハードトップ、そして2ドア・ハードトップをラインナップ。サイズのみならず細部のトリムなど、仕様がカタリナとは異なっていた。
このステーチーフよりもさらにラグジュアリーなシリーズがボンネビル。サイズはスターチーフと共通だが、こちらには4ドア・セダンが存在せず、代わりに4ドア・ステーションワゴンと2ドア・コンバーチブルがラインナップされていた。基本的にマスクやテールのデザインはカタリナやスターチーフと同じだ。
そして、今月の主役であるグランプリ。ボディサイズと全体的なフォルムはカタリナ2+2に倣っているが、同じタテ目のマスクでも、よく見るとその表情は明らかに違っている。言葉で表現するのは難しいが、グリルの造形も鼻先の突き出し具合もカタリナとは別モノで、よりシャープでスポーティな印象を強くしている。実はこれが同年型のGTOと酷似しているのだが、GTOはインターミディエイトなので、言ってみればグランプリをひとまわり小さく作ったというカンジだろうか。ちなみにテンペストとル・マンはGTOのベースグレードなので、基本的にマスクは共通。ただしフォグランプの有無などによってイメージは随分と違って見える。
主役のグランプリから話がそれてしまったが、グランプリが“スペシャリティ”なのは、2ドア・ハードトップ・クーペだけをラインナップするモデルだからである。「マスクがちょっと違うだけであとはカタリナじゃないか!」と思う人もいるかもしれないが、リアパネルのデザインなどは全く異なっている。言葉で表現するより写真を見てもらった方が早いかもしれないが、細い4本のスリットの中に隠して埋められたようなテールレンズがなんとも言えず怪しく、そして、美しい。勘のいい人ならひと目見てピンときたかもしれないが、このアイデアがずっと後のファイアーバード・トランザムに継承されたのは間違いなさそうである。
インテリアを覗いても、スペシャリティを感じさせる部分は多い。リアルウッドを配したインパネやコンソール、そしてスケルトン・タイプの樹脂を採用したステアリングホイール。当時新車でこれをドライブできたのはどんな人だったのだろう……? 当時のファクトリープライスは3492ドル。ちなみに同年型カタリナの2ドア・ハードトップは2893ドル、GTOは2847ドルだった。
さて、最後にエンジンの話を少しだけ。この時代のポンテアック・フルサイズ・パッセンジャーカーにはすべてV8エンジンが標準搭載されたが、グランプリにはその中でも強力な部類に属する325hpの389cuinV8が標準搭載されていた。このポンテアックの389ユニットにはいくつかの仕様が存在し、最もベーシックなものが256hp、逆に最もHOTなものは俗にいうトライパワー(2バレル×3キャブレター)で360hpを誇っていた。なお、この66年型ポンテアックにラインナップされたV8には他に326cuinと421cuinが存在したが、基本的にポンテアックにはスモールブロックとかビッグブロックとかという系統分けがなく、それらを外観だけで判別するのはほぼ不可能と言える。
タテ目に尖った鼻はこの時代のポンテアックの強烈なアイデンティティだが、グランプリの造形は他のフルサイズ・パッセンジャーカーとは異なっている。具体的にはラジエターグリルのデザインがポイントで、このグランプリのマスクはインターミディエイトで最もHOTなモデルだったGTOに酷似している。
リアパネルの全面に細い4本の横スリットがデザインされ、テールランプはこの中に埋められるカタチでレイアウトされている。一見しただけでは何処から何処までがランプなのか分かり難いが、点灯するのは左右の一部だけである。
独特な形状のハブを採用した足元には“8ラグ”と称された14インチ・ホイールがセットされる。非常にユニークなアイテムだが他に互換性がなく、例えばアフターマーケット製のマグホイールなどによるドレスアップは不可能である。
取材車はオリジナルのエンジン・コンパートメントが好印象。搭載エンジンはボア4.06×ストローク3.75インチの389cuinV8。圧縮比は10.5:1で、最高出力325hp@4800rpm、最大トルク429lbft@2800rpmを発生する。このエンジンはグランプリに標準で搭載されたものだが、オプショナル・ユニットとして最高出力376hpの421cuinV8(トライキャブレター仕様)も用意されていた。