#070 78年型ダッジ・マグナムXE

A-cars Historic Car Archives #070
’78 Dodge Magnum XE

Text & Photo : よしおか和
(MOPAR Classics/2008 Oct. Issue)
 Jul. 31, 2025 Upload

 アメリカの古き佳き、そして力強い時代を象徴するマッスルカー達が終焉を迎えたのは70年代のはじめ。その背景にはマスキー法による排ガス規制や合衆国連邦安全規準の制定、そして世界規模のオイルショックといった要因が混ざり合っていた。実際、モデルイヤーでいうところの71年から各社のハイパフォーマンスV8がその圧縮比を低下させ始め、72年には伝説と言われる名機のほとんどが姿を消した。その後74年頃までは僅かながらもマッスルと呼べるモデルが存在したが、75年にはいよいよ排ガス規制が厳しく実施される運びとなり、V8パワーウォーズの申し子達は完全に姿を消したのだ。

 以来、ビッグスリーのスポーティモデルは否応無しに方向転換を強いられた。ある者はダウンサイジングと共に大排気量エンジンを棄ててエコノミー路線を歩み、またある者はフルサイズ・サルーン並みのデラックスなインテリアと快適装備を与えられて、ラグジュアリークーペへと変身した。パワー一辺倒のハードコアなCAR BUFFからすると、そのどれもが苦肉の策としか思えなかったのかもしれないが、当時の大衆の反応がどうだったかというと決して不評ではなく、むしろ素直にウケたと言っていいだろう。事実、生産台数を調べてみると、70年代中盤以降に数字を伸ばしたモデルが少なくない(経済成長と共にモータリゼーション環境が変化し、核家族化に伴って自動車保有の絶対数が増加した事も考慮しなければならないが…)。言ってみれば若い頃のホースパワー傾向は麻疹のようなものであり、大人になった彼らはたとえホイールスピンや暴力的な加速を演じられなくとも、コンフォータブルな居住空間と高級感あふれるドライバビリティを味わわせてくれる新型のクーペに満足し、自らのカーライフスタイルまでも方向転換したのだ。


 今月はそんな時代のなかで生まれた1台のスポーティクーペをクローズアップした。ダッジ・マグナムXE、モデルイヤーはデビューイヤーの78年である。インターミディエイトのBボディとして括られるこのマグナムXEには兄弟としてクライスラー・コルドバが存在し、また同じダッジ・ブランドではチャージャーが広く一般に認知されているが、簡単に言うとマグナムXEはチャージャーの後継モデルと考えられる。ただし、78年型にはまだチャージャーがラインナップされていただけに納得しにくいところ。実はチャージャーは75年の途中からチャージャー・デイトナなるモデルを追加していて、これは2トーン・カラー・ペイントと独自のラジエターグリルが与えられたスポーティ・パッケージだったのだが、このアイデアを発展させて作り上げた新型のクーペモデルこそがマグナムXEなのである。それを裏付けるように77年型のチャージャー・デイトナはリミテッド・エディションのファイナル・オプション・パッケージとなり、78年型には存在しない。そして78年型のチャージャーは前年に捌き切れなかったSEモデルを販売したものと考えて間違えなさそうである。

 さて、予備知識も充分なところで撮影したブライト・キャニオン・レッドのクーペを見て貰おう。全体のフォルムはいかにもレイト70sらしいグラマーな印象で、特にボディサイドのプレスラインが特徴的である。しかしデザイン的な個性が最も窺えるのはフロントマスクだろう。クロームに仕上げられたバンパーこそこの時代ではありきたりな造形だが、一体型でボディと同色に塗られた水平のバーで4段に仕切られたラジエターグリルは横に大きく広がり、特に一番下側は車幅いっぱいまで伸びている。そしてそれぞれのエッジにクロームのモールディングが飾られる事で実に精悍な表情が生まれているのだ。もうひとつ重要なポイントはヘッドライト。大胆にスラントしたベゼルの奥には角型4灯のユニットが埋められているが、その前方には無色透明のプラスチック製カバーが装着されていて、ライトスイッチに連動して開閉する。先代のチャージャーはデビュー当時から鉄製のカバーで瞳を隠す、いわゆるヒドゥンヘッドライトがトレードマークだったが、このマグナムXEではプラスチックに水平に8本の白い線が描かれているものの、そのカバー越しに常にライトが見えているのが特徴的で、これはそれまでに例を見ないダッジの新しい試みだった。

リアまわりの造形もなかなかだ。トランクリッドのプレスラインや水平にクロームのアクセントラインを施したテールレンズのデザインは、フロントマスクと統一感もあって実に美しく個性的である。尚、現車はランドゥトップの仕様でプレーンなオペラウィンドウが備わるが、ここに2本の水平なバーが与えられて小さな窓が更に3分割される仕様も存在した。いずれにしても細かなディテールに至るまで、デザインに凝って作り上げた新型車である事は確かで、言い換えるならエンジン性能では演出し切れない分、そのルックスでスポーティさを表現したモデルだったのである。

 インテリアはボディカラーに合わせてコーディネイトされたレッドトリムで、レザーシートを始めとして随所に高級感を漂わせている。それは勿論クライスラー・ブランドの高級サルーンと同等ではないが、ダッジとして精一杯頑張った姿と言えるだろう。そして何より現車はそのコンディションが素晴らしい。これが仮にマッスルエイジ以前のクラシックモデルなら丹念にレストアされたクルマも決して珍しくはないのだが、言ってみれば中途半端に古いネオクラシックであるだけに、ここまで美しくオリジナルの状態を保っている個体が稀少なことは容易に想像できる。ちなみにこのマグナムXEは当時日本には正規輸入されなかったモデルであり、筆者の知る限りではこれが日本初上陸。そういう意味でも生産から30年の時を経て、こんなにミントなコンディションの個体を撮影し、誌面で紹介できる事を嬉しく思っている。なお、このマグナムXEは79年型を最後に姿を消してしままう。それは、80年型で兄弟車のコルドバがフルモデルチェンジを果たし、ダッジもそれに倣い再びNEWモデルを投入した為である。その直線的なデザインの新型クーペにはマグナムXEの名は与えられず、ミラーダという全く新しいモデル名が与えられた。


ディメンションは、ホイールベース114.9インチ(約2918㎜)、全長215.8×全幅77.1×全高53.1インチ(約5481×1958×1349㎜)。マッチョなイメージを抱かせるプレスラインにBボディならではのダイナミックなフォルムは、80年代以降のモデルが失ってしまったアメリカ車ならではの魅力。70年代終盤に僅か2年間だけ生産されたマグナムXEだが、78年型の生産台数が4万7827台、79年型が2万5367台と、不振に喘いでいた当時のダッジとしてはもちろん、ファクトリープライスが5000ドル台半ばに達するラグジュアリー・クーペとして見ても好調な売れ行きを示していた。


シートにはレザーを採用し、ダッシュボードからステアリングコラム、ステアリングホイール、ドアトリム、カーペット、フロアマット、そしてヘッドライナーまで、すべてレッドでコーディネイト。70年代ならではの強烈なアメリカの匂いを漂わせている。


大きなセンターコンソールにセットされたのは、トルクフライト3速ATのセレクターレバー。このあたりのデザインにもレイト70s独特のセンスが窺える。


標準タイヤサイズはFR78×15。取材車はデラックス・タイプのホイールカバーを装備している。


マグナムXEの個性が最も明確に表現されたフロントマスク。一体成型のフェイスには、水平に4段に区切るカタチのラジエターグリルが備わる。


斜めに切り落とされたようなデザインのヘッドライト・ベゼルには、水平に8本のラインを描いたクリアカバーが与えられ、その奥に角型のデュアル・ヘッドライトが配される。このクリアカバーはライトスイッチと連動して縦方向に回転しながら開閉する。


テールレンズのカットやトランクリッドのプレスラインがフロントマスクとの統一感をもたらしているリアビュー。ブライト・キャニオン・レッドの上に描かれたホワイトのピンストライプ・デカールはエンジンフード上にも認められるが、いかにも70年代らしいテイストである。


搭載エンジンは標準となるコードGの318cuinV8。これはエレクトリック・リーンバーン・システムというコンピュータ制御のスパーク・コントロール装置を備えたパワーユニットで、排出ガスをクリアにする反面、最高出力は140hp@4000rpm、最大トルクは245lbft@1600rpmに抑えられている。ボア3.91×ストローク3.31インチ、圧縮比は8.5:1で、キャブレターは2バレルのカーターBBD。なお、この他にオプショナル・ユニットとして155hpの360cuinV8と190hpの400cuinV8が用意されていた。