キング奪還のための最終兵器、エアロウォーズの寵児。

Text & Photo:James Maxwell

 エンジン性能が飛躍的に向上し、従来の速度記録が次々と塗り替えられた60年代のNASCAR。その結果としてNASCARマシンはより空力性能が重視されることになり、メーカーはエアロマシンを規定生産台数クリアのためだけにストリートへと放った。MOPARで言えばダッジ・チャージャー・デイトナ、そしてその翌年に投入されたプリマス・ロードランナー・スーパーバードがそれである。

 1969年のNASCARシーンに大きな異変があった。長年プリマスの顔として活躍してきたスター・ドライバー、リチャード・ペティがこのシーズンからフォードに移籍したのである。移籍理由はシンプルにプリマスに戦えるマシンがないこと。ただ、移籍してもペティのプリマス愛は変わらず、ファクトリーには「戦えるマシンさえ作ってくれたら復帰してもいい」と意向を伝えていた。ペティが去った後の影響—レースでも販売面でも成績不振に陥っていたプリマスにとってこれは挽回する絶好の機会。ダッジがチャージャー・デイトナを開発してフォード勢に対する一方でエアロマシンの開発に乗り気ではなかったプリマスだが、ここに至りようやく重い腰を上げた。

 プリマスがエアロマシンのベースに選んだのはロードランナー。そこに70年型コロネット用のフェンダーとエンジンフードを組み合わせ、長さ18インチのノーズコーン、さらにチンスポイラーも追加した。Aピラーには空気の流れを整えるカバーを装着し、テールレンズもモディファイ。そして極めつけが高さ24インチという巨大なリアウィングスポイラーの採用である。

 当時のNASCARでは1000台以上という販売台数規定があり、プリマスは期日である70年1月1日までに1920台(実際には1935台とも言われている)を生産した。

 こうして戦えるマシンが用意されたことに加え、年俸アップ、さらにクライスラー・コンペティション・パーツのディストリビューター契約といった好条件を提示されたことでペティは1年でプリマスに復帰。そうして迎えた70年シーズン、ペティはシリーズ・チャンピオンこそ逃したものの年間18勝を挙げた。多くの勝利はもちろん、復帰したスタードライバーへの注目度、メディアへの露出の多さなどを考えれば、ペティの復帰に巨費を投じたプリマスの判断は間違いではなかったと言えるだろう。

 市販車の話に戻すと、69年にダッジが投入したチャージャー・デイトナのセールスが好調だったことでプリマスも各ディーラーにスーパーバードの受注を急ぐように通達するなど期待していたが、実際のセールスは芳しくなかった。高額な車両価格、そして市販レースカーとして設定される高額な保険料などがネックとなり、多くのディーラーで売れ残ってしまったのだ。あるディーラーでは大幅にディスカウントされて投げ売りされ、また別のディーラーでは3年間ショールームに飾られたまま売れ残り、最終的には専用パーツが外されただのロードランナーとして販売されたという。


至高のMOPAR MUSCLE 70’s MOPARマッスルの華

’70 Plymmouth Road Runner Superbird 426HEMI

 高さ24インチ(約609mm)、幅55.5インチ(約1410mm)のウイングは広いパーキングロットでもすぐに目に付く。トランク内にはウイングのサポート用プレート&ブラケットが見える。クラッシュ時にウイングが飛んでいかないように、レース車両ではここにケーブルが付けられていた。


 ノーズコーン中央にエア・インテーク(グリル)が備わるのはデイトナと同じだが、その位置はデイトナよりも低い。ノーズコーンはスチール製だがヘッドライトのカバーはFRP製。ちなみにヘッドライトには69年型ダッジ・チャージャーのバキューム式システムが流用されている。左右のパーキング・ライトは70年型フューリーからの流用だ。


 左右のフロントフェンダー上部に備わるスクープ。レースカーではこの下のボディに穴が開いていたわけだが、市販車では穴は開けられず、いわばデコレーションである。Aピラーを覆うカバーは、高速走行中の空気の流れをよりスムースにする目的で備えられたもの。シンプルだが、風洞実験で効果が証明されたアイテムだ。


 搭載エンジンはコードR、最高出力425hp、最大トルク490lbftを発する426cuinV8ストリートHEMI。使用されているホース類やプラグワイヤー、そしてエンジン・ペイントまで、すべてOEMパーツを使用するなどオリジナルへのこだわりは徹底している。キャブレターはカーターAFBがツインでセットされる。


 リアウィンドウのエンド部分脇、バイナルトップの下端からトランクに向かって備わる菱形のプレートは、スーパーバード固有のアイテムであるストリームライン・ウィンドウ・プラグ。その名の通り、これも空気の流れを整える役目を果たす。


 オーナーは撮影車両をデイリー・ドライブしており245/60R15のグッドイヤーSTを履いているのも日常使い故。もちろん当時のオリジナルであるF60×15のグッドイヤー・ポリグラスGTもしっかりガレージに保管されている。


 3スポークのステアリングを始め、インテリアもフル・オリジナルの状態が保たれているが、エンジン・マネージメントに欠かせない油圧計(ステアリングの左側)だけはアフターマーケットでセットされたもの。コンソール前方にはエンジン・エコノミー・ゲージが備わるが、これは当時のディーラー・オプションと思われる。ステレオはオリジナルのAMラジオから、オプションの8トラック・プレーヤー付きAMラジオに変更されている。


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