#073 68年型ダッジ・コロネット・スーパービー

A-cars Historic Car Archives #073
’68 Dodge Coronet Super Bee

Text & Photo : よしおか和
(MOPAR Classics/2009 Oct. Issue)
Sep. 4, 2025 Upload

 MOPARマッスルを象徴するひとつの要素として、ユニークなキャラクターの採用が挙げられる。というと、誰もが真っ先に思い浮かべるのが “ロードランナー”だろう。若者をターゲットとし、価格を抑えるために余分なデコレーションや快適装備を排除。その代わりにビッグブロックV8モーターを標準で搭載し、スポーティでハイパフォーマンスなイメージを強調したプリマスのインターミディエイトモデル、それがロードランナーだったわけだが、ワーナーブラザーズのカートゥーンに登場するキュートなキャラクターをそのまま身につけて車名にまでしたことで、今日ではマッスルカーファンはもちろんのこと、全くそれには縁がなさそうな若い女の子にまでウケているようだ。
 このロードランナーのデビューイヤーは68年だったが、実はこれと同時にこの世に生を受けた兄弟車があった。それはダッジ・ブランドの “スーパービー”で、正確にはダッジ・コロネット・スーパービーとなる。こちらのボディにもロードランナーに負けない個性的でチャーミングなカートゥーンが与えられたが、そのちょっとファンキーなミツバチ君はクライスラーが作り上げたキャラクターだった。ゴーグル付きのジェット型ヘルメットを被り、全力疾走する足がタイヤになっている姿は、なんともいえない味があっていかにもMOPARらしいものだ。


 今月クローズアップするのはそのデビューモデル、68年型のスーパービーである。生産台数は7842台で、同年型のロードランナーが4万4598台もリリースされた事実を知ると、かなりレアなモデルであることを改めて認識せざるを得ない。そもそも、ロードランナーが発表時からひとつの独立したモデル・シリーズだったのに対し、デビュー当初のスーパービーはコロネットのバリエーションの中のひとつという位置付けだった。より具体的にいうならば、コロネット440のピラード・クーペをベースに、383マグナム・モーター、デュアル・エキゾースト・システム、ヘビーデューティ・サスペンション、ハースト製フロアシフター付き4スピード・マニュアル・トランスミッションなどを標準装備し(ATはオプション)、ルックスにおいてもパワーバルジを設けた特製のエンジンフードや、独自のレーシング・ストライプ(バンブルビー・ストライプ)などによって、ベースのコロネット440とははっきりと差別化されたスポーティ・バージョン、それがスーパービーだった。2ドア・クーペと2ドア・ハードトップというボディ・バリエーションを有していたロードランナーに対し、スーパービーはセンターピラーを有する2ドア・クーペのみのラインナップであり(ただし69年型からは2ドア・ハードトップも追加された)、インテリアの仕様もスーパービーはベンチシートのスタンダード・トリムに限られていたのが特徴だった。


 ダークレッドが美しい取材車は、貴重なオール・ナンバーズマッチの1台で、トータル・レストレーションがフィニッシュしたのを機に撮影したものだ。エアコンやタイヤなど、一部の仕様を除いてオリジナルに忠実に仕上げられているのが印象的で、MOPARマッスルの王道を往く1台といえよう。68年型のエクステリアには他のモデルイヤーには見られない独創的なデザインが随所に見受けられるが、筆者は特にこのテールのスタイルにヤラレてしまう。ただでさえ表情豊かでエキゾチックなライトまわりに加えて、強烈なインパクトを示すバンブルビー・ストライプに例のミツバチ君の姿をカタチどったデカールとくれば、もうこれ以上に悩ましい眺めのリアスタイルは他にないだろう。
 細かなディテールやスペック等の解説は写真に添えたキャプションを参照していただくとして、最後にロード・インプレッションの感想をひとことだけ。マッスル・エイジのMOPAR・Bボディは、これまでに何台となく所有してきたし、現在もそれらをドライブする機会が少なくない。そんなこともあって、正直なところ特に取り立てて感動することもないはずなのだが……このスーパービーはそのコンディションが素晴しいこともあって久々に熱いものを感じさせてくれた。相変わらずドライビングポジションもハンドリング・フィールも、古臭いインターミディエイトのクーペには相違ない。だが、そのトルクフルで滑らかな走りや、不快な異音などが一切ないサスペンション・フィールがあまりにも素晴らしく、いつもの“欲しい病”が発病しそうだった。もっとも、この取材車はすでに新しいオーナーが決まっているとのこと。また借金が増えなくてよかった……と自分を納得させつつも、ちょっと残念でもある。


68年型スーパービーは、ボディスタイルを2ドア・クーペに限定した。あくまでも新車価格を安く抑えるための配慮だったが、いま改めて見るとそれがことさらレース色を強めており、いかにもマッスルカーらしい。


トパーズ・メタリック・ゴールドのボディにパーチメント・ホワイトのバイナルトップを組み合わせた取材車は当時オクラホマ州のディーラーMAGNUMと称するハイパフォーマンス版の383cuinビッグブロックV8は、ボア4.25×ストローク3.38インチ、コンプレッションレシオ10.0:1で、最高出力335hp@5200rpm、最大トルク425lbft@3400rpmを発生する。バルブリフターはハイドラリック、キャブレターはカーター製AVS。この68年型まではターコイズのエンジンエナメルを採用していたのが印象的だった。なお、取材車はオリジナルとは異なるエアコンのシステムを搭載している。


エンジンフードのパワーバルジと、リア部分をぐるりと1周するバンブルビー・ストライプがスーパービーならではのアイデンティティ。小さな丸いサイドマーカーレンズが採用されたのはダッジ、プリマスともにこの68年型だけであり、モデルイヤーを見分けるポイントとなる。


スーパービーのキャラクターは当時ダッジのハイパフォーマンス・パッケージを示すスキャット・パックのキャラクターでもあり、バンブルビー・ストライプとともに、マッスルエイジにおけるダッジ・ハイパフォーマンスの象徴でもあった。


ブラック・バイナルのスタンダード・インテリア。68年型のスーパービーではすべてがこのベンチシート仕様となり、バケットタイプの設定はなかった。チープと言えばチープだが、シンプルでスパルタンなイメージが今日のマッスルカーファンには好印象に映る。


飾り気のないインパネに丸形のゲージが並び、このクルマのレーシーな性格を表現している。その内側にクロックが組み合わされたタコメーターには“TicTac”というMOPARらしいユニークなネーミングが与えられている。