#072 69年型オールズモビル・4-4-2 W30

A-cars Historic Car Archives #072
’69 Oldsmobile 4-4-2 W30

Text & Photo : James Maxwell
(Muscle Car Review/A-cars 2010 Sep. Issue)
Aug. 28, 2025 Upload


 1960年代、オールズモビルは4-4-2というハイパフォーマンス・モデルをリリースしていた。その名前の意味するところは、4バレル、4スピード(=4MT)、そして2(デュアル)エキゾースト。パワフルかつハイグレードなハンドリングで、当時の俗に言う“マッスルカー”と比較しても、さらにワンクラス上を行く存在だった。そんな4-4-2の中でも、リファインされたパワープラントや足まわりなどを含むオプション・パッケージを選択した“Wマシン”と呼ばれるモデルは別格の存在であり、現在でも憧れを抱くファンは少なくない。
 撮影車は、まさにそんな“Wマシン”である。正式名称は69年型オールズモビル・4-4-2・ホリデイクーペ・W30。アリゾナ州のフレッド・マンドリック氏が所有する撮影車は、トリムのリクロームやインテリアのアップデートといったリフレッシュはなされているものの、大掛かりなレストレーションは一切受けていない、いわゆる“サバイバーカー”(簡単に言えば、ボディやシャシー、そしてエンジンなどの全てがオリジナルのパーツであり、大掛かりな補修作業が施されていないまま現在の状態を保っている、ということ)である。
 4-4-2の“W30”というだけで希少な存在なのだが、この個体にはさらにレアなポイントがある。それはトランスミッションで、M21というマンシー製のクロスレシオ・4スピード・マニュアル・トランスミッションがファクトリーで載せられているのだ。こうしたオプションが設定されていたことからも、Wシリーズがストライプやデカールなどの外見だけでなく、パフォーマンス面でも手抜きのない真のパフォーマンス・モデルだったことが理解できる。それはW30パッケージに含まれるパワープラントが “ロケット”と呼ばれる400cuinV8だったことからも裏付けられる。このパワープラントは4-4-2専用にプロデュースされたもので、その内容は当時ラインナップされた通常の400とは全くの別物だった。ちなみに、W30パッケージにはエアコンは組み合わせることができず、後期型になるまではパワーブレーキも設定されなかった。


 このWマシンに搭載されるエンジンは、その組み上げ工程からして普通とは違っていた。ファクトリーでは使用するピストン、コンロッド、メインベアリングなどのウエイト・バランスをマッチさせることに重点が置かれ、燃焼室の容量も細かく均等になるよう合わせられたのだ。これは“セレクト・フィット”と呼ばれる方式で、エンジンのトータルバランスを重視することで、本来のパフォーマンスを最大限に引き出すことを狙ったものだ。
 Wマシンが搭載する400エンジンの圧縮比は10.5対1。これは普通のオールズモビル製400エンジンと同じ数値だが、W30には専用の4.75インチ・リフト/108度オーバーラップのハイリフト・カムが採用された。これにより、W30のアイドリングは他の4-4-2と比較して明らかにラフであり、バキューム式パワーブレーキが設定されなかったことも納得できる。
 カムシャフトだけではない。W30の400エンジンは、シリンダーヘッドにも“D”キャスティングという、インテーク・バルブ径2.0625インチ/エキゾースト・バルブ径1.625インチのパフォーマンス・パーツが採用されていた。
 このほかW30ならではの特別なパーツとしては、強化バルブスプリング(125ポンド)、メカニカル・アドバンス・ディストリビューター、OAI(アウトサイド・エア・インダクション=バンパーのインテークからエアクリーナーまでをダクトホースで直結してコールドエアを強制的に採り入れる吸気システムのこと)などが挙げられる。また、69年型ではエキゾースト・マニフォールドもデザインが変更され、より効率が高められた。
 この69年型W30のカタログ・スペックは、最高出力360hp@5400rpm、最大トルク440lbft@3600rpmとされていたが、実際の出力はそれを遥かに上まわっていたはずだ。
 足まわりにはヘビーデューティ・スプリング&ショックアブソーバーが採用され、フロント、リアともにスウェイバーが標準装備されるが、これは69年型4-4-2全車に共通するもの。リア・サスペンションに強靭なボックス式コントロールアームが採用されている点からは、ドラッグストリップを重視していたことが推測される。
 4スピード、4バレル、そして、デュアル(2)エキゾースト。純粋に走りを、パフォーマンスを追及するカスタマーだけに向けてリリースされたオールズモビル4-4-2。Wマシンはまさしく“漢”のクルマだった。


トパーズ・メタリック・ゴールドのボディにパーチメント・ホワイトのバイナルトップを組み合わせた取材車は当時オクラホマ州のディーラーからデリバリーされた個体。69年型としてリリースされた4-4-2ホリデイクーペは1万9587台。しかしW30パッケージを選択したモデルは僅か1389台だった。


インナーフェンダー(ファクトリーでは“フィラー・プレート”と呼ばれた)がレッドに塗られているのもW30ならではの特徴。


トパーズ・ゴールド・メタリックのボディにホワイトのフード・ストライプが映えるが、このストライプもW30パッケージに含まれたものだ。なお、ボディペイントもストライプもオリジナルのままであり、塗り直されたものではない。


こちらのウィンドウ・ステッカーはオリジナルのコピー。撮影車のプライスが総額4587.68ドルだったことがわかるが、当時の物価を考えると決して安い買い物ではない。


こちらはボディサイド後端に備わるサイドマーカー。オールズモビルらしくロケットを組み合わせたデザインを採用している。


当時オプションだったスーパーストックIホイールは、現在では非常にレアなアイテムとなっている。レッドストライプ・タイヤも良い味を出している。


W30が搭載する400cuinV8は、ファクトリーで特別に組まれたもの。カタログ数値では最高出力360hpとなっているが間違いなくこの限りではない。ちなみに、4-4-2のレギュラーモデルに搭載された400エンジンの最高出力はAT仕様車で350hpという数字(MT仕様車は325hp)。W30の最高出力がそれより僅か10hpアップの数字で発表されたのは、NHRAにエントリーする際に最高出力値によってクラスが制限されることが関係していると思われる。


フロントバンパー下の左右に備わるエア・スクープからエアクリーナーへと繋がる4インチ径のダクトによって、コールド・エアを強制吸気させるシステム。


トランクに眠るスペアタイヤもオプションのスーパーストックIホイール。これだけでも90.58ドルと、当時としては高価なオプションだった。


トランクに眠るスペアタイヤもオプションのスーパーストックIホイール。これだけでも90.58ドルと、当時としては高価なオプションだった。


トランスミッションはマンシー製のクロスレシオ・4MT(コード=M21)。標準で備わるハーストシフターにはHURSTの文字ではなく442の文字が施されている。


オーナーのマンドリック氏が撮影車を入手したのは2005年のこと。入手時はドアパネルにスピーカーを後付けした時の穴が開いており、シートにも破れがあったが、現在はリニューアルされ、美しいオリジナルの姿を取り戻している。撮影車はオプションのスポーツ・コンソール&マップライトやカスタム・スポーツ・ステアリングを備えている。