#063 70年型AMC・レベル・ザ・マシーン
A-cars Historic Car Archives #063
’70 AMC Rebel The Machine

Text & Photo : よしおか和
(AMC Classics/2016 Mar. Issue)
Jun. 13, 2025 Upload
マッスルカー・エラに生まれたAMCのハイパフォーマンス・モデルと言えば、AMXとジャベリンが比較的その名を知られている。ともに68年型のデビューで、ジャベリンに関してはそのHOTバージョンにAMXというネーミングが与えられたことでちょっとややこしいのだが、AMXは2シーターのいわばスポーツカー、一方マスタングが開拓した小型スペシャリティカー=ポニーカーの市場に投入されたのがジャベリンで、その中でもジャベリンAMXはAMC製マッスルカーの代表的存在と言えるだろう。
とは言え、“マッスルカーというのはもともとお父さんが乗ってるような箱型の2ドアセダンやクーペをベースに、大排気量のV8モーターやコールドエア・パッケージ、デュアルエキゾースト、ヘビーデューティ・サスペンション、ポジトラクション機構などが与えられて完全に生まれ変わったマシンこそがドキドキワクワクして面白いんだ!”という意見も少なくない。言い換えれば、見るからに格好良くて速そうなクルマなら速くて当たり前だが、一見そうは見えないボクシーなフォルムのクルマが速いからその意外性にファンはやられてしまう訳で、実際にNHRAのスーパーストックではそうしたクルマが活躍したからこそレースシーンも盛り上がったし、その影響を受けて市販モデルも徐々に鼻息を荒くしていったのだ。

もちろんだが、AMCにもそういう背景から誕生したモデルが存在している。まずは69年型の途中で登場したハーストSCランブラーである。これはランブラー・アメリカン・ローグというコンパクトかつベーシックなクーペに390cuinのV8と大胆なエアインスクープを奢り、独自のカラーリングで仕上げたモデルだったが、正直言って一般からのウケはイマイチだった。なぜならば当時各地のストリップで活躍していたのはインターミディエイトが中心であり、AMCはたとえばポンテアックGTO、オールズモビル4-4-2、シボレー・シェベルSS、フォード・トリノ・コブラ、そしてダッジ・コロネットR/Tやプリマス・ロードランナーといったモデルに対抗し得るモデルを作らなければならなかったのである。そしてAMCが持てるアイデアと技術を全て注いで70年型として投入したのが、今月ここにクローズアップしたマッスルカー、“ザ・マシーン”なのだ。
ベースとなったのはフルラインナップのインターミディエイト・パッセンジャーカーとして67年型でデビューしたAMCレベルで、ザ・マシーンにはその2ドアクーペが採用された。ボディカラーはホワイトを基調にスターズ&ストライプス(星条旗)を構成するブルーとレッドを組み合わせた奇抜なラインがあしらわれ、取って付けたようなエアインダクトとレヴカウンターがフード中央のブルーに塗られた部分に与えられた。そのフードの下で息づくのは340hpの390cuinV8、トランスミッションはハースト製シフターで操る4速マニュアルと、このあたりは明らかに当時ドラッグレースで強さを見せつけて販売競争でもイケイケぶりを発揮していたMOPARのBボディ・HOTモデルたちを意識していると思われる。
そして気になるのが当時の人気だが……現在このモデルがウルトラレアな存在であることからも推して知るべしである。結局この70年型の1年限りで姿を消したレベル・ザ・マシーンだが、だからこそマニアックなマッスルカーとして1、2を争うモデルであり、結果的に現在では驚く程のバリューが示される超希少車となっているのである。


インテリアを覗いても、スペシャリティを感じさせる部分は多い。リアルウッドを配したインパネやコンソール、そしてスケルトン・タイプの樹脂を採用したステアリングホイール。当時新車でこれをドライブできたのはどんな人だったのだろう……? 当時のファクトリープライスは3492ドル。ちなみに同年型カタリナの2ドア・ハードトップは2893ドル、GTOは2847ドルだった。
さて、最後にエンジンの話を少しだけ。この時代のポンテアック・フルサイズ・パッセンジャーカーにはすべてV8エンジンが標準搭載されたが、グランプリにはその中でも強力な部類に属する325hpの389cuinV8が標準搭載されていた。このポンテアックの389ユニットにはいくつかの仕様が存在し、最もベーシックなものが256hp、逆に最もHOTなものは俗にいうトライパワー(2バレル×3キャブレター)で360hpを誇っていた。なお、この66年型ポンテアックにラインナップされたV8には他に326cuinと421cuinが存在したが、基本的にポンテアックにはスモールブロックとかビッグブロックとかという系統分けがなく、それらを外観だけで判別するのはほぼ不可能と言える。





インテリアはまさにレベルからの流用であり、唯一個性を見せるのはドライバーズシートとナビシートの間のアームレストに例のトリプルカラーをあしらっている点くらいだろうか。インパネ周りの造作はベーシック、チープ、無骨といった言葉で形容できるだろうが、現在見るとその潔さに好感が持てるのである。

ザ・マシーンのオリジナルリムはAMCの15インチ・スチールラリー。タイヤは当時のアイテムではなく、BFGのラジアルT/A 235/60-15がセットされている。


トータルで2326台だけが生産されたレベル・ザ・マシーン。実はこのモデルのみならずレベル自体が70年型を最後に消滅し、71年型からは後継モデルのマタドールにバトンを渡している。



取って付けたようなエアインダクトによるコールドエア・パッケージの効果もあり、最高出力340hp@5100rpm、最大トルク430lbft@3600rpmという数値を誇る390ユニット。撮影車はそのコンディションも最高で、今回の撮影中も実にヘルシーでご機嫌なサウンドを終始奏でていた。