A-cars Historic Car Archives #027
'67 SHELBY G.T.500
67年型シェルビーG.T.500
Text & Photo : よしおか和
(Shelby x Shelby/2008 Jul. Issue)
Sep. 27, 2024 Upload
(ヒストリックカー・アーカイブ Vol.26からの続きです)
モデルイヤーでいうところの67年、フォード・マスタングはデビュー以来初めて明確な変身を果たした。現在から見たならば、あくまでマイナーチェンジの域は出ないものの、より大きく口を開いたラジエターグリルや深く抉れたヘッドライトベゼルなど、フロントマスクの印象はよりワイルドさを増し、ボディのプレスラインもよりワイドでマッチョなイメージを強調していた。そして、メカニカル面における大きな変化が、オプショナル・パワーユニットにビッグブロックV8が追加されたことである。もちろん、これに合わせてシェルビーGTも変身した。前年まではエクステリアの基本デザインはマスタングに倣っていたが、この67年型からは専用のエンジンフード、フロントマスク、トランクリッド、そしてリアパネルを採用し、はっきりとマスタングとの差別化を図ったのである。さらにインテリアでも、前年まではレースカーにしか装備されなかったロールバーが標準でセットされたり、ショルダー・ハーネスがほぼ標準装備扱いとなったり、とにかく視覚的によりスペシャルでスパルタンなGTカーという印象を強調したのである。
では、その中身の方はどうだったかというと、GT350に関しては66年型以上にソフトで実用的なGTになった、というのが正直な感想である。事実、サスペンション関係ではKONI製のショックアブソーバーがオプションリストから外され、シェルビー・オリジナル・スウェイバーもフォード純正のものに格下げ。ステアリング・ギア・レシオも僅かに低められたし、エンジン関連でもヘダースが鋳鉄製マニフォールドへとグレードダウンされた。また、マニュアル・トランスミッションが、ボルグワーナーT10からフォード製のトップローダーへと変更されたのもこの67年型からのことである。
しかし、この67年型のシェルビー・マスタングを語るとき、GT350以上に重要な存在になってくるのが、同年デビューを果たしたGT500である。このモデルはFRP製の長いエンジンフードの下に7リットル級のビッグブロックを搭載していたのがなによりの特徴だ。シェルビー・アメリカンが手掛けたフォードの7リットル級V8といえば、レース好きならば誰もがあのGT40やフェアレーンのNASCARマシンに搭載されたエンジンを連想するに違いない。それは427サイドオイラーと呼ばれた名機で、カテゴライズするならば純粋なるレーシングモーターである。だが、このシェルビーGT500が備えたのは残念ながらそれではなく、同じFEブロックでもボア×ストローク、マテリアル、そして細部のデザインも異なる428ポリス・インターセプターだった。これを採用した理由は、ここまでの内容からも容易に推測できるだろう。すなわち、フォードとシェルビーが作ろうとしたのはレースカーのベースとなるクルマではなく、あくまでも快適で実用性が高いながらもムードはあくまでレーシーという欲張りなGTカーだったのである。
ポリス・インターセプターとは、その名のとおり追跡を目的とするポリスカー用として開発されたパワーユニットで、シェルビーがこれに対して行った独自の仕様変更は、427サイドオイラー用のミディアムライズ・インテーク・マニフォールドと、2連装のホーリー製4バレル・キャブレターを採用したに過ぎない。それでもCOBRAの名が刻まれたフィン付きのアルミ製ロッカーカバーやSHELBYのロゴが物々しい楕円のエアクリーナー・ハウジングを見て、羨望のため息をつくファンがどれだけいたことだろうか。
無論、355hpに420lbftというビッグパワー&トルクを4速マニュアル・トランスミッションで操る醍醐味は、まさに毒蛇使い表現するに相応しい感覚だっただろう。誤解のないように追記しておくが、GT500のトランスミッションはトップローダーだけでなくC6ATも選択可能であり、ついでにいうとパワーステアリング、パワーブレーキもほぼ標準装備。当然エアコンもオプションで選択可能なデラックス版GTであり、それがユーザー側のニーズと見事にマッチして、この67年型GT500は2048台がラインオフした。ちなみにGT350の方は1175台であり、時代がどう変化し、なにを求めていたのかがこれらの数字からはっきりと窺える。
翌68年、シェルビーGTは実際にはシェルビー・アメリカンの手を離れ、フォード自身の手で生産されるようになった。その理由に関して、中身がマスタングとほとんど変わらなくなってしまったGTカーにシェルビーのノウハウを必要としなくなったから、という見方もある。だが実際には、シェルビー・アメリカンが借りていたベニスのファクトリーが契約切れとなり、次なる候補地にはFRPプラントを建設するスペースが確保できなかったこと、そしてCan-Amへの本格参戦などレース活動が忙しくなってきたことなどが大きな理由だったようだ。
いずれにしても65年型から70年型までの6年間に生産されたシェルビー・マスタングは、その生産台数からいっても、独自のスタイルからいっても、極めて貴重なスペシャリティ・マッスルであり、この時代のハイパフォーマンスカーを語る上で不可欠な存在でもある。今回はビルドbyシェルビーの時代から2台のオリジナルカーを紹介したが、いつの日にか、#1コンディションを6年分並べて特集できたら、どんなにエキサイティングなことだろう。
67年型シェルビーGTは、たとえこのレーシングストライプがなくともその外観からフォード・マスタングとは明らかに区別できる。独自のフロントマスクは大きめに抉られたヘッドライトベゼルとあいまってより前方へと突き出すカタチにデザインされていて、エアスクープを備えたFRP製エンジンフードはマスタングのフードと比較してかなり長くなっている。
G.T.500は特製フードの下にスペシャルなビッグブロックV8を搭載する。もともとがフォードのポリスカー用に開発されたエンジンで、その名も428ポリスインターセプター。ボア4.13×ストローク3.98インチ、コンプレッションレシオ10.5:1で、7リッター超の排気量となるこのハイパワー・ユニットには、シェルビーの手によってレーシング・エンジンである427サイドオイラー用のインテークマニフォールドにホーリー製の600cfm4バレル・キャブレターが2連装され、最高出力355hp@5400rpm、最大トルク420lbft@3200rpmまでパワーアップされている。キャストアルミ製のバルブカバーと同じくキャストアルミ製となる楕円形エアクリーナーハウジングにそれぞれ刻まれたCOBRA、SHELBYの文字が物々しい。なお、この67年型G.T.500には、非公式ながら427サイドオイラーを搭載したモデルが極僅かに生産されたという記録も残されている。
シェルビー・アメリカンが各車にこのシリアルプレートを与えたのも、この67年型が最後となった。
ラジエターグリルのセンターに配置されるロードランプは、もともとはヘッドライトのハイビームだった。ただし、当時日本に輸入されたモデルにおいてはロービームとハイビームが大きく離れていることが保安基準に適合せず、イエローのレンズに変更されて補助ランプとして仕立てられていた。アメリカ本国でも州によってはイリーガルとなったため、グリルの最も外側にライトを配置するハウジングを備えたグリルも存在していた。
ホイールは15×7のケルシー・ヘイズ・マグスターで、スチール製。タイヤも当時のオリジナル・アイテムであるグッドイヤーのナイロンコード・ワイドオーバル・スポーツタイヤ“スピードウェイ”を組み合わせている。
シェルビー独自のエンブレム。この67年型からコブラのイラストが採用されたが、その一方でマスタングの野生馬を描いたバッジはひとつも見当たらない。なお、フィラーキャップにはデビューイヤーからコブラマークが描かれていたが、そのデザインもこの67年型で一新されている。
インテリアでは独自のウッドリム・ステアリングが採用され、ダッシュにはシェルビーならではのバッジが与えられるが、ドライバーズシートより前を見る限りでは、それ以外にシェルビーG.T.ならではの特徴は見当たらない。一方、ドライバーズシート後方に備わるロールバーとショルダーハーネスは通常のマスタングには与えられなかったアイテム。これらはこの67年型ではG.T.350、G.T.500ともに標準で装備されたが、この2ポイント式のロールバーは本格的なレース用とは言い難く、あくまでレーシング・イメージを重視したアイテムだったと推測される(ちなみに、67年モデルイヤー初期に製造された20数台は4ポイント式のロールバーを備えていたという記録もある)。
トランスミッションは通称トップローダーと呼ばれるフォード製の4速マニュアル。G.T.500ではオプションでC6オートマチック・トランスミッションを選択することも可能だったが、こちらのMTを組み合わせた方がよりシェルビーに相応しいパフォーマンスを体感できたことはいうまでもない。
クォーターサイドにはものものしいツインスクープが備えられ、スポイラーを一体成型したリアフェイシアおよびトランクリッドもシェルビーならではのデザインとなるが、これらは全てFRP製。また、リアフェイシアに配された赤い横長のテールレンズは、マーキュリー・クーガーのパーツを流用したものだ。67年型のボディカラーは全部で10種類までバリエーションが増した。取材車はオリジナルではダーク・モスグリーンだったが、現在はアカプルコ・ブルー(実際には66年型のサファイアブルーに近い)にリペイントされている。