A-cars Historic Car Archives #058
'66 Chevrolet Impala SS 427
66年型シボレー・インパラSS 427
Text & Photo : James Maxwell
(Muscle Car Review/2007 Dec. Issue)
May 9, 2025 Upload
シェビー・フルサイズのフラッグシップ、ベルエアのポジションを受け継ぐモデルとして、1958年よりリリースが開始されたのがインパラである。ワイド、ロング&ローというスタイル・コンセプトで登場したインパラは、デビュー当初は“やや無骨”という印象が拭えなかった。だが、今月紹介する66年型インパラは、フロントエンドのフェイスリフトやニュー・デザインのテールランプの採用によって、よりクリーンで洗礼されたスタイリングとなっている。今回スポットを当てるのは、その66年型インパラのスポーツグレードとして人気を集めたSS(スーパー・スポーツ)だ。66年型のインパラSSに用意されたボディ・スタイルは、65年型と同じセミ・ファストバックと呼ばれるルーフラインを持ったスポーツ・クーペとコンバーチブルの2種類。どちらにもフロント・バケットシート&コンソールが標準装備された。66年型インパラSSの販売台数は11万9314台と記録されている。
ホイールベース2916mm、全長5220mmという大柄なボディのインパラは、オプションの選択次第では車重が1800kgに達するケースもあった。この車重も考慮して、66年型インパラではハンドリング及び乗り心地を向上を目的にフレームがより頑強なものに変更されている。
エンジン・ラインナップには65年型と同じく283cuinおよび327cuinのスモールブロックV8と、396cuinのビッグブロックが並んでいたが、66年型では新たにマークⅣエンジンとして知られる427cuinのパワフルなビッグブロックV8が追加された。この427エンジンには2バージョンが用意され、ひとつは390馬力のストリート・バージョン、もうひとつはスペシャル・パーパス・エディションと呼ばれた425馬力仕様だった。
ストリート・バージョンの427cuinV8(L36)の主な内容は、インテーク・バルブ径2.065インチ、エキゾースト・バルブ径1.72インチ、オーバルポート・ヘッド、10.25:1ピストン、ハイドラリック・カムシャフト、キャスト・インテーク、ロチェスターのクアドラジェット・キャブレターというもので。最高出力390hp@5200rpmという、ストリート・バージョンといえども充分以上のポテンシャルを持つユニットだった。
それでも物足りない、というパワー信奉者に用意されたのがスペシャル・パーパス・エディションの427エンジン(L72)である。こちらの内容はというと、インテークバルブ径2.190インチ、ハイフロータイプのレキュタンギュラー(長方形)ポートを持つヘッド、メカニカル・カムシャフト(リフト量0.520インチ)、11.0:1鍛造ピストン、4ボルトメイン・ブロック、アルミ製ハイライズ・インテーク、ホーリー780cfmといったところ。見ての通りスタンダードの427エンジンよりも大幅にパフォーマンスを重視したモンスター・パワープラントとなっていた。カタログ上のパワー表記は425hp@5600rpmとなっていたが、実際の最高出力は6500rpmで450hp程度といわれている。いずれにせよ“暴力的”な仕様のハイパフォーマンス・エンジンであることに間違いはない。
この最強のL72で武装したインパラは、シボレーのマッスルカー全ての中でもレアなモデルといえる。ちなみに66年型において、このL72はインパラ以外にビスケイン、ベルエア、そしてカプリスなどにもオプション設定されていた。それぞれの生産台数は明らかではないが、これらのモデルにL72パッケージが用意されたのがこの66年型だけということを考えると、その台数が非常に少ないことは間違いないだろう。
写真の66年型インパラSSは、まさにそのL72パッケージを選択した1台。そう、スペシャル・パーパス・エディションたる427エンジンがファクトリーで搭載された、正真正銘のリアルSSである。現在はアリゾナ州在住のケビン・ドゥワイトというL72にこだわりを持つコレクターの下にあり、実走行距離は6万マイルとなっている。マデイラ・マルーンのボディは一度リペイントされているものの、その他は一切いたずらに手が付けられていない。エンジンはもちろんのこと、トランスミッション、リアエンド、スターター、オルタネーター、そしてインテリアに至るまで、フルオリジナルのナンバーズ・マッチングを保っている。
ドゥワイト氏がこのインパラの存在を知ったのは2003年のことで、ミシガン州に住むオーナーがインターネット上でFor Saleとしていたという。もともとL72搭載車に目がなかった氏は、ミシガンに住んでいる友人に車両の確認を依頼。その友人はクルマの隅々までチェックし、各シリアルナンバーを書き留め、その場でドゥワイト氏に電話した。ナンバーズ・マッチングだと知った氏はその場で購入を即決。実はその時、友人にはお金を預け、現地にはトレーラーで向かうように頼んでいたというから、用意周到というかなんというか(笑)。ともかく、氏はこのクルマの情報を知った瞬間から買う気満々であり、結局その日のうちにインパラはアリゾナへと送られたのだった。
アリゾナに到着したインパラを細かくチェックすればするほど、その保存状態のよさに驚いたという。ペイントは若干褪せていたものの、その他はほぼ完璧な状態だったのだ。特にペーパーワークに関しては、新車で納車された時からのすべての書類が揃っていた。そしてこれらの書類から、このスーパーレアなインパラがイリノイ州のラ・ハープという町に拠点を置いていたフレッド・ギブ・シボレーというディーラーで販売されたことが判明した。
フレッド・ギブといえば、シェビー党で知らぬ者はいないほどのビッグネームである。「スーパー・カマロ」を販売したことで知られるフレッド・ギブ・シボレーは、60年代終盤にはドラッグレースにおいてナイトロ・メタン仕様の“Mr. Chevrolet”というファニーカーをスポンサードしていたことでもよく知られている。69年にオールアルミ製の427cuinV8(ZL1)がカマロに搭載されたのも、彼の尽力によるところである。
この事実を知ったドゥワイト氏は、取り憑かれたようにこのインパラのヒストリーをリサーチしはじめた。まずフレッド・ギブ自身に連絡を取ったが、残念ながらギブ氏は数年前に亡くなっていた。だが、この連絡をきっかけに健在なヘレン・ギブ夫人と交流を持つようになり、インパラにまつわる様々なストーリーを聞くことができたという。そしてこのインパラは、実はギブ・ファミリーの親しい友人が新車で購入したもので、よくフレッド・ギブ・ディーラーに出入りしていたことも判った。こうした交流を通じて、ドゥワイト氏はミシガン州のギブ家に招待されるようになり、家族ぐるみの付き合いに発展していったという。
昨年8月、このL72インパラはかつてフレッド・ギブ・シボレーがあったイリノイ州ラ・ハープで開催された“フレッド・ギブ・メモリアル・オープン・カー・ショー”というイベントに参加。会場では、かつてフレッド・ギブがスポンサードしたドラッグレーサーの67年型カマロZ28“リトル・ホス”や、ヘレン夫人がいまだ乗り続けているCOPOノバと並んで展示された。そしてこの日、ヘレン夫人は心憎いばかりの贈り物をドゥワイト氏に用意していた。それは当時フレッド・ギブ・シボレーで新車を購入した際にもらえたオリジナル・キーホルダーだった。新車としてリリースしたディーラーのあった場所に、38年の歳月を経てショールーム・コンディションで里帰りしたL72インパラ。このショーの後で、オリジナル・オーナー(故人)の息子と会い、往時を偲ぶことができたことも含めて、ちょっといい話である。
現在、このインパラはアリゾナで大切に保存されているが、時にドゥワイト氏は街中も走らせている。3.73のリアエンドに425馬力を誇るビッグブロックV8のパワーをフルに伝えるべく、4速クロスレシオのM21を忙しく操りながら……。
ショールーム・コンディションにあるエンジン・コンパートメント。搭載するのは427cuinV8のL72。最高出力は425hp@5600rpmと発表されていたが、保険料の関係もあって、最高値よりも低い回転数での数値を発表するのが当時のハイパフォーマンスエンジンの常。このL72も実際には450hp@6500rpm程度のパワーを有しているとみられる。エアクリーナーを外すと巨大なホーリー780cfmが姿を現し、L72ならではの印象を強くする。
取材車は新車当時からの書類が完璧に揃った1台だが、それらを調べた結果、このオルタネーターも新車時の物と判明した。
ミッド・ウエストのイリノイ州で販売されたこの車両は、寒冷地仕様になっており、フューエル・ライン用の不凍液を入れるためのボトル(写真右下)が備わる。つまり取材車は天候に恵まれない地域で長期間を過ごしたことになるわけだが、それにも関わらず錆が一切見当たらないことには驚かされる。
ご覧のようなシングルのマスターシリンダーが使用されたのはこの66年型まで。67年型からは安全基準が強化されたことに伴い、デュアル・タイプのマスターシリンダーに変更される。
427cuinV8搭載車は、390馬力仕様でも425馬力仕様でもこの“427 Turbo-Jet”のエンブレムが備わった。
スタンダードのSSと印象を異にしているマグスタイルのフル・ハブキャップ。これはコードN96のオプション・アイテムで、当時の価格は73.75ドルだった。ちなみに14×6インチのJKスチールホイールはセットで5.30ドル。
厳密にオリジナルの姿を保っているインテリア。ダッシュボードとセンターコンソールの間にセットされるゲージ類はSSモデルならではの装備。オーディオにはオプションのプレミアム・AM/FMラジオをチョイスしている。ちなみに当時のオプション価格は133.80ドルだった。
横型スピードメーターの右に備わるエレクトリック・タコメーターは、コードU16のオプション・アイテム。当時の価格は47.40ドルだった。
66年型インパラSSのベースプライスは2927ドルだったが、ウィンドウ・ステッカーに見えるように、L72を含むオプション装備を含めたこの66年型インパラSSの新車価格は4533.30ドル。当時の物価を考えると、この金額は安易に出せるものではなかった。
パッセンジャー・サイドのベンチレーション・ウィンドウ(三角窓)に見えるフレッド・ギブ・シボレーのステッカーは新車時から貼られているもの。フレッド・ギブ・シボレーは、シェビー・マッスルカーを語る上で欠くことのできない存在。特にドラッグレース・シーンで活躍し、NHRA、AHRAなどでその名を轟かせた、伝説的なシェビー・ディーラーである。
文中でオーナーのドゥワイト氏のことを「L72にこだわりを持つコレクター」と書いているが、実はこのL72を搭載したインパラSSを4台所有している筋金入りのL72コレクターである。