A-cars Historic Car Archives #056
'93 Buick Regal Estate Wagon
(Buick Century Custom Estate Wagon)
93年型ビュイック・リーガル・エステート・ワゴン
(ビュイック・センチュリー・カスタム・エステート・ワゴン)
Text & Photo : よしおか和
(Mama's Mighty Groceries Getter / 2007 Apr. Issue)
Apr. 25, 2025 Upload
日本国内における90sステーションワゴンの大ヒット作といえば、ビュイック・リーガル・エステート。その登録台数を比べれば、前出のフルサイズモデル(編集部注=ビュイック・ロードマスターやシボレー・カプリス)を圧倒している。ここでひとつ解説しておくと、84年型からラインナップに加わったこのFWDのコンパクトサイズ・ステーションワゴンは、本国でのネーミングをセンチュリー・カスタム・エステート・ワゴンという(シリーズ名はセンチュリー)。しかし日本には既にセンチュリーという名称のクルマが国産大手メーカーに存在していたため、正規輸入車においてはリーガルと名乗ったのである。ややこしいのは、同時代のビュイック・ブランドには別にリーガルというモデルが存在していたことだ。しかもそのもともとのリーガルも一緒に正規輸入されていた時期があるので、よく頭を整理して理解しないと混乱を招くのである。もっとも、その時代に本国のリーガルにはステーションワゴンの設定がなかったから、リーガル・ワゴン=センチュリー・ワゴンと解釈して問題はないだろう。
さて、このリーガル・エステート・ワゴンだが、86年型と89年型ではっきりと識別できるフェイスリフトを行った後、96年型まで生産された。本国でのベースモデルは直列4気筒エンジンを搭載したが、日本への正規輸入車にはオプションのV6ユニットが搭載された。104.9インチ(約 2664mm)のホイールベースで、全長が190.9インチ(約4849mm)、全幅は69.4インチ(約1763mm)と非常に扱い易いサイズということもあり、過去にAカーに触れたことのないユーザーまでをも含めて広く大衆に受け入れられた。いや、過去形で語ってしまってはいけないかもしれない。実は生産中止から10年以上を経過した現在でも根強いファンが少なくない人気モデルなのである。
なぜこのリーガル・エステート・ワゴンが未だにウケているのか? それは一度ドライブしてみると分かる。国産のミディアム・サルーンと大して変わらないサイズながら、乗るとそのフィーリングは明らかにAカーなのだ。いや、ここは敢えて“アメ車なのだ”と表現した方がよりしっくりくるかもしれない。それは柔らかめにセッティングされたサスペンションによるところなのか、あるいはフワフワした座り心地のベンチシートの魔力なのか、決してタイトでもないがルーズ過ぎることもないハンドリング・フィールによるものなのか、それともフラットトルクのV6エンジンの特性が影響しているのか……。とにかく、日本車やヨーロッパ車のワゴンにはないテイストを存分に味わえるのである。それでいてサイズ、燃費等、Aカーの不利な要素を全て消し去っているユーティリティ・ビークルだから言うことはない。アメリカン・カジュアルなファッションやライフスタイルを好むファミリーにはぴったりの選択だし、さらにいまとなっては少しクラシカルで通っぽい雰囲気まで漂わせているのだから、これで人気者にならない方が不思議である。
取材車はAカーショップの主宰者のワイフの愛車で、現在ショッピングから愛娘の課外教室への送迎まで、実に幅広く日常のアシとして大活躍している。デイリードライバーとして愛用しているので、ボディの汚れや少々の傷をいちいち気にしなくてもよい、クルマとしての大らかな性格(?)というか、懐の深さみたいなものが何よりもお気に入りのポイントだと話してくれた。
ちなみにこのウッドグレイン・パネルとルーフラックはオプションであり、本国のセンチュリー・ワゴンでは相対的に見てかなりレアな仕様なのだが、正規輸入車のリーガル・エステートに限って言うならばその半数近くがこの仕様だったと記憶している。そしてこれらの存在が、小さくても本格的なフルサイズワゴンに通ずる印象をもたらしてくれているのである。
テールゲートはドア全体がそのまま上に跳ね上がって開くタイプで、リアガラスだけも開閉する仕組み。このあたりは、ちょっとした買い物時には実に便利なシステムであり、Mama's Grocery Getterらしい装備といえる。
ラゲッジルームのフロアを持ち上げるとサードシートが姿を現す。この後ろ向きシートは正直なところ大人が乗るには狭い。しかし、子どもには充分なサイズであり、エマージェンシー・ユースとして考えても嬉しい装備である。
搭載エンジンは204cuinV6。ボア3.70×ストローク3.16インチ、圧縮比9.0:1で、最高出力160hp@5200rpm、185lbft@2000rpmという実力を持つ。なお、本国のセンチュリーにおいてはこのV6ユニットはオプションであり、標準で搭載されたのは133cuin直4だった。