A-cars Historic Car Archives #054

'93 Buick Roadmaster Estate Wagon

93年型ビュイック・ロードマスター・エステート・ワゴン


Text & Photo : よしおか和

( The Final "Full Sized" Station Wagon / 2008 Oct. Issue)

Apr. 10, 2025 Upload

 

 1980年代以前のビュイックにおけるフルサイズ・ステーションワゴンは、ルセーバー/エレクトラ・シリーズの中にラインナップされていた。だが、91年型からは同シリーズが新たにFWD(Front Wheel Drive=前輪駆動)のプラットフォームを採用することになり、エステートと称するステーションワゴンはこの年から登場したニューモデル、ロードマスターに移行された(デビューイヤーはエステート・ワゴンのみが生産され、翌年からセダンも生産されるようになった)。このロードマスターのネーミングは1950年代に使用されており、それを復活させたものだが、デザインこそ全体的に丸味を強調して斬新だったものの、基本設計は縦置きのV8エンジンにRWD(Rear Wheel Drive=後輪駆動)のフルフレーム車という極めてトラディショナルなものだった。兄弟分としてシボレーのカプリス・クラシックとオールズモビルのカスタムクルーザーがともにデビューしたが、後者は僅か2年でラインナップから姿を消している。

 ロードマスター・エステート・ワゴンは、ビュイックというブランド・イメージをそのまま反映して、兄弟の中で最も高級な仕様に仕上げられた。ボディサイドには伝統のウッドグレイン・パネルを備え、ルーフ中央にはダークティントのガラスをセット。2ウェイ式のリアゲートを開くと、カーゴのフロア下から後ろ向きのサードシートが姿を現す8パッセンジャー・ワゴンで、デビュー当時からエアバッグやABSを備えるなど安全装備にも抜かりがない。インテリア・トリムも一段とデラックスで、日本に上陸したモデルは撮影車のようにレザーシートを装備した個体が圧倒的に多い。なお、15インチのアルミホイールやリアウィンドウ・ワイパー、ヘビーデューティ・サスペンションなどもすべて標準装備となる。

 

 

 搭載エンジンは当初シボレー・ディビジョンが供給する305cuinV8が標準だったが、92年型からは同じシボレー製V8ながらも350cuinユニットが全車に搭載されるようになった。これは基本的には同時代のカマロZ28に載っていたものと同じだったが、カムシャフトのプロファイルやフューエル・インジェクション・システムが異なることで最高出力は180hpに抑えられ、そのぶん低速トルクを重視した特性が与えられていた。そして、驚くべきはその燃費で、大きなボディからは想像がつかないかもしれないが、高速巡航の際には10km/L以上をマークすることも少なくないのだ。ちなみに、このロードマスター・エステート・ワゴンは、ホイールベースが115.9インチ(約2944㎜)、全長が217.5インチ(約5525㎜)、全幅が79.9インチ(約2029㎜)で、この時代のビュイックでは最も大型であり、車両重量も4500ポンド(約2041kg)を超えている。それにも関わらず、なのである。

 ただし、94年型以降は350ユニットがLT1へと世代交代し、最高出力260hp@5000rpm、最大トルク335lbft@3200rpmというカタログ数値が示すとおり、パワフルな高速型V8を実感させたわけだが、その反面、93年型までのような驚くべき燃費をマークすることはなくなった。これは現在も中古車市場でクルマを選ぶ際のポイントになっており、どちらのエンジンを選択するかは、クルマになにを求めるかによって意見の分かれるところである。

 


ボディサイドおよびリアゲートに備わるウッドグレイン・パネルも、アメリカン・フルサイズ・ステーションワゴンの伝統を感じさせる部分。

 


センチュリー、リーガル、パークアベニューと、当時のビュイック各モデルに共通した顔つき。ウォーター・フォール・デザインを採用した幅広のラジエターグリルとサイドマーカーによって、少々タレ目気味に見えるヘッドライトまわりが特徴的だ。


搭載エンジンはシボレー・ディビジョンが供給する350cuinV8。圧縮比は9.8:1で、最高出力180hp@4000rpm、最大トルク300lbft@2400rpmをマークする。マネージメントはECM&スロットルボディ・フューエル・インジェクションによる。高速巡航で驚くほどの高燃費を示すのが特長だ。


インテリアはレザーシートを採用したデラックスな仕様で、ダッシュパネルにあしらわれたローズウッド調の化粧パネルもビュイック・ブランドらしい高級感を見事に演出している。オールパワーの快適装備もフルサイズ・ステーションワゴンでは当然といったところだろう。


オーセンティック・アメリカン・ステーションワゴンならではの2ウェイ・リアゲート。リアウィンドウは上に跳ね上がり、ゲートドアは2つの異なるレバーによって縦方向にも横方向にも開閉する仕組みだ。ラゲッジルームのフロアを捲ると後ろ向きのリアシートが姿を現すのも、フルサイズ・ステーションワゴンならではの芸当だ。


ルーフの中央部分に、ややバブル状に膨らんだダーク・ティントのガラスパネルがセットされるのも、ロードマスター・エステート・ワゴンの大きな特徴のひとつ。これは正式には“ビスタルーフ”と呼ばれるものだが、そのネーミングの起源は64年型のオールズモビル・ビスタクルーザーにあると推測できる。


アルミ・ロード・ホイールはロードマスター・エステート・ワゴンの標準装備。タイヤサイズはP225/75R15。