A-cars Historic Car Archives #050

'70 Plymouth Barracuda AAR 'Cuda

70年型プリマス・バラクーダ・AARクーダ

 


Text & Photo : よしおか和

(MOPAR Classics/2017 Jan. Issue)

 Mar. 13, 2024 Upload

 

 “Win on Sunday, Sell on Monday !”

  日曜に勝って、月曜に売れ! そんなフレーズが標語化していた時代の話である。1960年代半ばから70年代初頭にかけて、すなわち後にマッスルエイジと括られる時代において、ストックモデルで競うレースはその成績が新車の販売台数に直接、そして大きく影響した。NASCARやNHRAはもちろんだが、マスタング誕生後のポニーカー市場において最も注目されたのは、SCCAが主催するセダン・チャンピオンシップ・シリーズ、通称『トランザム・レース』だった。

 SCCAトランザムは排気量2リットル以下と5リットル以下の2クラスが混走したが、後者はまさにポニーカーたちの熾烈な戦いの場だった。66年に始まったこのシリーズの初年度からクライスラーは5チームが参戦したが、基本的にはそれら全てがクラブマンチームで、ファクトリーからなんらかの支援を受けていたチームもあったものの、ワークス体制には程遠いものだった。そして翌67年からの、事実上のファクトリー・チームであるシェルビー(フォード)やペンスキー(シボレー)が攻めぎあうシチュエーションの中で勝てるはずもなく、クライスラー勢は次第に撤退することになった。

 しかし、冒頭のフレーズのとおり、このレースでの成績がどんな広告よりも効果絶大である事実は変わらなかった。そのため、クライスラーは70年型としてプリマス・バラクーダをフルモデルチェンジすると同時に、ダッジから新型車としてその兄弟車であるチャレンジャーを発表。そしてこのふたつのディビジョンで完全なワークス体制を整えて、改めてトランザム・レースに参戦することを決定した。

 バラクーダとチャレンジャーは、ともにファクトリーでアシッドディップ(ボディなどを強酸性のプールに浸すことで薄くして軽量化を図る手法)された後にダン・ガーニー率いるAAR(All American Racars)でレースカーとしての基本的な部分がビルドされ、バラクーダはそのままAARに残され、チャレンジャーの方はロングビーチに移転したばかりのオートダイナミクスに送られた。そうしてレースマシンはそれぞれ個性的に仕上げられたのだが、SCCAの規定で各々2500台以上の生産が義務付けられていたことにより、結果としてこのレースのための専用モデルが市販されることになった。そのひとつ、ダッジ・チャレンジャーT/Aはちょうど先月号(注・2016年12月号)の巻頭特集でクローズアップしたばかりだが、今月のこのコーナーではもうひとつのホモロゲ・モデル、プリマスAARクーダを紹介する。

 

 

 AARクーダがレギュラーモデルと違っているのは、独自デザインのFRP製エンジンフード、フロント&リアスポイラー、15インチ・ラリーホイール(HEMIクーダでは標準)、サイドマウント・エキゾースト、独自のストロボ・ストライプといったところで、エンジンは2バレル×3基のキャブレターを組み合わせたスモールブロックの340ユニット(340+6)が搭載された。エンジンコードでJと示されるこのユニットは、AARクーダとチャレンジャーT/A、つまりトランザムレースのホモロゲモデルだけに搭載されたものだ。

 先に記したように、レースのレギュレーションは排気量5リットル以下なのだから、首を捻っている人もいるかもしれない。実はSCCAの規定において、69年までの排気量上限が302cuinだったのに対し、70年からはそれが305cuinに変更されると同時に、市販するホモロゲモデルに関しては、実際にレースに出場するマシンが搭載するエンジンとボア値さえ一致していればストローク値が異なっても良いと、事実上緩和されたのである。そして実際のレースエンジンは、この340をベースにキース・ブラックによって304cuinまでディストロークされてビルドされたのだ。さらにレースカーのキャブレターは4バレル1基であり、ホモロゲモデルの6バレルはあくまでもレーシーなイメージを強調するための仕様だったことが理解できる。

 撮影車はオリジナルの340+6に4スピードのマニュアルトランスがセットされ、この70年型から採用されたピストルグリップのシフターでそれを操る、いかにもその気にさせてくれる仕様なのが嬉しい。ちなみにこの6バレル仕様では当時のオリジナルのコンプレッサーが物理的に装着不可能だったため、エアコンの設定はなかった。もちろん現代のシステムを導入すればエアコンを付加することも可能なのだが、筆者の私見を言わせてもらうならば、レースのホモロゲーションモデルなのだしこのまま当時のオリジナル・スタイルでハードドライブを楽しむのが王道だろう。そして撮影車はまさにその理想的なカタチ。ちなみに、現在のコレクターズカーとしてのバリューも、このオリジナル・スタイルが最も高く評価される傾向にある。

 


オリジナルのストロボ・ストライプはデカールによってボディサイドに描かれた。クーダのSexyなボディラインが強調される絶妙なデザインのアイテムと言えるだろう。レースマシンはネイビーブルーをベースとし、エンジンフード全面に独自のストライプが描かれたが、このストロボ・ストライプはあくまでも市販モデルのためのものでレースマシンには採用されなかった。


搭載エンジンはボア4.04×ストローク3.31インチの340cuinV8。2バレル×3基のホーリー製キャブレターを組み合わせたハイパフォーマンス・スモールブロックである。エンジンコードはJで、プリマスでは340-6バレル、もしくは340+6と称される。ちなみにダッジでは340-6パックと呼ばれるのが一般的だ。カタログデータでは圧縮比10.5:1で最高出力は290hp@5000rpm、最大トルクは340lbft@3200rpm。


AARクーダの独自デザインとなるFRPフード。エアインダクト開口部のすぐ奥にはエアクリーナーカバーが見え、雨の日には走らせたくないカタチでもある。写真からもわかるように、撮影車のフードはフェンダーとのチリが微妙に合っていないが、これはFRPというマテリアルが原因。過去に国内外で相当な台数のAARとT/Aを見てきた筆者の経験から言わせてもらえば、きっちりとチリが合っている個体は非常に稀である。


MOPARマッスルでサイドマウントエキゾーストを採用したのは、このトランザム・ホモロゲーションとなるEボディだけ。クロームのチップがややラッパ型にエンドに向けて広がっているのが特徴。ちなみに後方45度の角度でフィニッシュしているので、日本の車検基準にも適応している。


フロントにディスク、リアは11インチのドラムというのがAARでは標準となるブレーキの仕様。タイヤはフロントにE60-15、リアにG60-15が標準とされた。なお15インチ・ラリーホイールが標準で装備されたのは、クーダではHEMI搭載モデルとクーダ340、そしてこのAARだけである。


スパルタンな雰囲気を漂わすオリジナルのインテリアは美しいコンディションを保っている。ピストルグリップ=スポーツマインドを刺激するマニュアルトランス仕様というのも嬉しいところ。AARクーダはSCCAトランザムのホモロゲーションモデルながら、実はAT仕様の割合が非常に高い。


レブカウンターを備えるこのメータークラスターを俗にラリーダッシュなどと呼んでいるが、AARクーダ、チャレンジャーT/Aともに、オプションとして扱われていた。