A-cars Historic Car Archives #049

 

'79 PONTIAC FIREBIRD TRANS AM 10th ANNIVERSARY LIMITED EDITION

79年型ポンテアック・ファイアーバード・トランザム 10thアニバーサリー・リミテッド・エディション

 


Text & Photo : James Maxwell

(Collector Car Review/2010 Oct. Issue)

 Mar. 6, 2024 Upload

 

 1969年4月、ポンテアックはファイアーバードのパフォーマンス・モデルとしてトランザムをデビューさせた。モデルイヤーも半ばになって投入された69年型トランザムの生産台数は僅かに697台(そのうちコンバーチブルは8台)で、現在では非常に高いプレミアム・バリューが認められている。そしてその10年後となる79年モデルイヤーに、ポンテアックはトランザムの10周年記念モデルを発売。それがここで紹介しているTATA(TRANS AM TENTH ANNIVERSARY)こと10thアニバーサリー・リミテッド・エディションである。

 ご存じの方も多いと思うが、トランザムというネーミングは、SCCA(スポーツ・カー・クラブ・オブ・アメリカ)が主催するTRANS-AMERICAN SEDAN CHAMPIONSHIP、略してTRANS-AMというレース・シリーズの名称に由来するものだ。こうしたレースに参加するマシンのベースになるモデルを……というコンセプトでファイアーバードをベースに製作されたのがトランザムであり、その開発には長年に渡ってポンテアックのレース活動に貢献した人物、ハーブ・アダムスが深く関与していた。

 話が逸れたが、69年のデビュー・イヤーこそ生産台数は少なかったものの、その後このトランザム・パッケージの人気は着実に高まり、販売台数も年々増えていった。そしてそのセールスがピークを迎えたのが79年で、この年だけで実に11万7108台のトランザムが販売された。そのうち、今回紹介しているTATAの販売台数は7500台である。

 さて、そのトランザムだが、実際にはスタンダードのファイアーバードやフォーミュラとどこが違ったのか? 69年型を例にとると、トランザムのボディカラーはホワイト&ブルー・ストライプのみで、パワープラントはスタンダードで400cuinのラムジェットV8を搭載。そして外見は、フード上のデュアル・スクープ、リアのエアフォイル、そしてフェンダーのエア・エキゾースト・ルーバーなどパフォーマンスを意識した仕様となっており、他のファイアーバードとの違いが明らかだった。

 

 

 第二世代のトランザムが登場したのは70年2月のことだ。トランザム・レースのホモロゲーション・モデルとして開発されたこの新しいトランザムは、フロント&リアのスポイラー、専用フードスクープ、フェンダー・ベンチレーションなどに加えて、フェンダー前部に備えられたホイール・スパッツが目を惹いた。このホイールスパッツはホイールの回転により発生する乱気流を抑えるパーツで、市販車としてこれを初めて採用したのがこのトランザムだった。風洞実験までは行われなかったようだが、入念にロードテストを繰り返した上で投入されたこの70年型トランザムは優れたエアロダイナミクスを有していた。

 さらに、70年型トランザムで忘れてはならなのが“シェイカー”だろう。これはエンジンに直にマウントされたエアスクープのことで、そのスクープ部分がエンジンフードに開いた穴から飛び出している格好になる。エンジンに直付けされていることでスクープが鼓動に合わせて“シェイク”することがそのネーミングの由来だ。トランザムの場合、そのインテーク部分は後方を向いており、フロントガラス前で巻き起こる気流を取り込んでエンジンにフレッシュエアーを送り込む。そして余分なエアはフェンダーに設けられたベントから排出され、フロントエンドのリフトを最小限に抑える仕組みになっている。このシェイカーは冒頭で触れたハーブ・アダムスのアイデアということだが、こうした装備がダミーではなく、実際に機能してパフォーマンスを向上させている点も、トランザムの大きな魅力。実際に、こうした点に惚れ込んでいるファンも少なくないはずだ。

 さて、こうして70+年型(編集部注・モデルイヤーに+や1/2を付けることでモデルイヤー中盤に投入されたことを示す)として登場した第二世代ファイアーバード・トランザムは、その後11年に渡って生産された。その間、400cuinや455cuinといった大排気量V8エンジンは徐々に縮小され、79年型ファイアーバードのエンジン・ラインナップには301cuinV8まで登場していたが、その攻撃的なルックスもあってトランザムの人気は衰え知らず。さらに77年に公開された映画『スモーキー&ザ・バンディット』(邦題『トランザム7000』)のヒットも手伝って、好調なセールスを維持していた。

 ちなみに、79年型トランザムは、そのエンジン・ラインナップに400cuin超のV8が存在した最後の年式でもある。79年型トランザムのエンジン・ラインナップは、301cuinV8・4バレル(150hp)、オールズモビル製の403cuinV8(185hp)、そしてポンテアック製の400cuinV8(220hp)の3種類。なお、オールズ製の403cuinエンジンは単に6.6Lと呼ばれてATのみが組み合わせられた一方、ポンテアックの400cuinエンジンはT/A6.6Lと区別され、こちらは4MTのみが組み合わせられた。

 

 

 

 ファイアーバードはこの79年型でフロントマスクが大きく変更され、フレッシュな印象をより強くしている。4個の長方形ヘッドライトがそれぞれのオープニングにセットされる形になり、いわゆるフロントグリルはバンパーエリアに移動。また、リアはガーニッシュと一体型のブラックアウト・テールレンズが採用されると同時に、以前はガーニッシュ内に位置していたナンバープレートがバンパー下へと移動している。

 79年型ファイアーバード・トランザムの中でもリミテッド・エディションであるTATAには多くの専用装備、デザインが与えられていたが、そのアイデアの大元は、77年にSCCAを走ったレースカー、“シルバー・バード”だった。このシルバー・バードは、フルファイバーのボディに大きなホイールアーチ、大型リアスポイラー、シルバーのツートーン・ペイント、フード上に派手に描かれた“火の鳥”などが特徴だった。ポンテアックのデザイナーは、このレースカーのカラーリングやフード・グラフィックをTATAに採用。さらに“ターボフロー”と名付けられたアルミホイール、レッド&ブラックのピンストライプなどでアクセントを与えた。ちなみに、左右のフェンダーにかかるほど巨大なTATAのフード・グラフィックは、3ピースのデカールで構成されている。

 このTATAの新車価格は1万0619.55ドルだった。当時の貨幣価値が分からないとピンとこないかもしれないが、79年型コルベットのベース価格が1万0220ドルだったと言えば、ある程度の想像はつくだろう。シボレーよりもハイクラスであるポンテアックのスペシャル・モデルとはいえ、Fボディの価格としては非常に高額と言わざるを得ない。それでも、このTATAは7500台の総てを売り切り、1台たりとも売れ残るようなことはなかったのである。

 撮影車はアリゾナ州在住のランス・マーティンソン氏が所有するTATA。実走行距離が僅か4118.8マイルという極上車である。写真ではあたかもフルレストアされたばかりのようなコンディションに見えるが、一切レストレーションが施されていない“サバイバー”であり、ツートーンのペイント、そしてトランザム独特のインテリアまで当時のままの状態で維持されている。アニバーサリー・モデルにはエアコンが標準装備となっており、そのおかげで灼熱のアリゾナの気候の中でもドライブが楽しめるとオーナーは笑っていた。

 


シルバーとチャコールのツートーンカラー、エンジンフードには巨大なファイアーバードのグラフィック。これはもともとSCCAに参戦していたハーブ・アダムスのレースカー“シルバー・バード”のためにデザインされたものだった。


チャコールに塗られたサイドミラー。ボディサイドやフード・グラフィックと同じように、ここにもレッドのピンストライプがあしらわれている。


79年型で一新されたフロントノーズは強化プラスチック製。フロントおよびリアのスポイラーにも同様のマテリアルが使用されている。フェンダーの両サイドに備わるダクトはダミーではなく、実際にエンジンルーム内のエアを排出する機能を持っている。


“ターボ・フロー”と呼ばれる独特なデザインのアルミホイールもTATAの特徴。このTATAで初めて採用され、80-81年型のターボ・トランザムなどにも採用された。


第二世代のファイアーバードにおいて、ファクトリーのシェイカー・スクープが実際に機能したのは最初の2年間のみ。その後の年式でもシェイカーを機能させるべくユーザーが改造する例が多く見られたが、取材車はオリジナルの状態(機能していない状態)を維持している。


Tトップを標準装備するのも10thアニバーサリーの特徴のひとつ。リアはワイドなブラックアウト・テールレンズをはじめ、大型リアスポイラー、そして左右にデュアル・フィニッシュするエキゾースト・チップなどが物々しい雰囲気を醸している。


トランザムが400cuin超の大排気量V8を搭載した最後の年式がこの79年型。撮影車が搭載するエンジンはオールズモビル製の403cuinV8で、最高出力は195hp。オールズの403はオイルの注入口がフロント側に備わるが、ポンテアック製の400モーターはリア側に備わるので、両者の判別は容易だ。撮影車は、ラジエターホースはもちろんクランプまでもが当時のオリジナル。ミネソタ州で販売された個体で、低標高地向けのエミッション・システムが備わっている。


航空機をイメージしたデザインのダッシュを採用するのは70年型から変わっていない。3スポークのフォーミュラ・ステアリングも同様だが、このアニバーサリーモデルに限りシルバーグレーのレザーが巻かれている。なお、このフォーミュラ・ステアリングは外注となるため、メーカーにとっては高コストなアイテムだったという。シフターの周囲にもダッシュに合わせてマシニング仕上げのプレートが与えられているが、これはアニバーサリー・モデル限定の装備。ドアパネルとリアシートにもアニバーサリー・エディションならではのファイアーバードを描いた刺繍が入るが、ポンテアックはこのためだけにフランスから刺繍機を輸入したという。


スペアタイヤはスペースセーバー。これによりトランク内のスペースが確保されている。トランクリッドの裏側にはホイールやジャッキの取り扱いに関する注意を書いたデカールが貼られているが、もちろんすべてオリジナルのままにある。