A-cars Historic Car Archives #022

'77 Mercury Cougar XR7

77年型マーキュリー・クーガーXR7


Text & Photo : よしおか和

(FoMoCo Classics/2009 Dec. Issue)

 Feb. 17, 2024 Upload

 マーキュリー・クーガーの誕生はモデルイヤーでいうところの1967年。フォード・マスタングに強力なライバルが出現したこの年に、それはマスタングの上級版としてデビューを果たしFoMoCoを盛り上げた。ボディスタイルは2ドア・ハードトップだけに限定されたいわゆるスペシャリティクーペで、69年型から73年型まではコンバーチブルも併せて生産された。初期のモデル変遷についてはほぼマスタングに倣ったカタチで、71年型で大きくエクステリアデザインを変更してイメージチェンジを果たしたが、次にマスタングが大幅なダウンサイジングを行った74年型においてクーガーの方は逆に更に大きなラグジュアリークーペへと変身した。つまり、クーガーがマスタングの兄弟車だったのははじめの7年間だけで、そのあとはサンダーバードの兄弟分に変わったのである。

 74年型から76年型までの3年間はクーガーが歴代でも最も大きなボディを纏った時代だ。サンダーバードと兄弟関係と書いたが、果たしてどちらが兄貴分なのかは微妙なところだ。フォードとマーキュリーというふたつのブランドを比べた場合にはマーキュリーの方が高級でラグジュアリーという意味合いが強い。だが、サンダーバードはフォードの中でも別格のスペシャリティカーであり、しかもクーガーの方はついこのあいだまでポニーカーだったモデルな訳で、急に格上げされたとしてもいきなりサンダーバードのお兄さんと言う訳にはいかないのである。なので実際にこの時代の両車はどちらが上とか下とか、あまり格付けが意識されない傾向にある。ただし、ファクトリープライスを比較するとサンダーバードの方が高価に設定されていたので、やはりクーガーが弟分ということになろうか。ちなみに、この両車には従兄みたいな存在があった。それはリンカーン・コンチネンタル・マークⅣで、3台を並べるとそのフォルムはことごとく似ており、正にFoMoCoラグジュアリークーペの豪華ラインナップという感じだった。

 

 

 さて、話題はいよいよ77年型になるのだが、ここで改めて時代背景を振り返ってみたい。そもそも70年代はAカーにとって激動の時代で、その幕開けとともにマスキー法が可決されて排ガス規制の大幅強化が決定した。その結果、各メーカーとも自慢のパワフルなV8ユニットを失い、代わりに多くのモデルがより高級指向へと路線を変更したのである。だが、70年代後半にかけては省エネルギー問題が深刻化し、やがて大量生産モデルにおいては燃費にまで制限が設けられた。これに対応して各ブランドが成し得たことと言えば、ボディを軽くすることと更に大人しいエンジンを搭載すること。コンピューターによって制御するフューエルインジェクションシステムやオーバードライブ付きトランスミッションの搭載はこの時点ではまだまだ現実的でなく、あくまで将来的な話だったのである。FoMoCoももちろん例外ではなく、先に紹介した3兄弟に関しても77年型でフルモデルチェンジを行いボディをシェイプしている。ただ実際にその数値を比較してみるとホイールベースでも全長でも縮小したのはほんの僅かであり、コンチネンタルにおいてはマークⅣよりマークⅤの方が若干長いくらいだった。それでも重量を比較すればはっきりと軽量化がなされているのが確認できる。

 そろそろ具体的に撮影車である77年型クーガーの解説に入ろう。前年型と見比べると明らかに贅肉を削ぎ落としてスタイリッシュに変身を遂げた。プレスラインはより直線的になり、新たに角形4灯式のヘッドライトを備えたことも併せて一段とモダンなルックスになったと言える。ちなみに兄貴分のサンダーバードはこの年式からヒドゥン・ヘッドライトを採用し、従兄のコンチネンタル・マークⅤにおいては先々代から採用された瞳を見せない風貌を継承している。つまりこの四角い目玉を見せた表情はクーガーだけのものだったのだ。

 ところで先程から筆者はただクーガーと記しているのだが、正確にはクーガー・XR7と記さなくてはならない。XR7はもともとクーガー・シリーズの最上級モデルに与えられた称号だったが、74年型以降XR7以外のモデルはラインナップから消滅し、実際にはクーガー=クーガーXR7となっていたからだ。しかしこの77年型では大きく状況が変わった。なんと生まれ変わった新しいクーガーは4ドア・ハードトップやステーションワゴンなどもラインナップし、従来からの2ドア・ハードトップの中でもスポーティでラグジュアリーなランドゥトップだけが改めてXR7と名乗ったのである。そしてXR7ならではの仕様といえば……と、いつのまにか原稿のスペースが残り少なくなってしまった。詳細はそれぞれの写真に添えたキャプションを参照して戴くこととしよう。

 最後に撮影の為にこのクーガーXR7を実際にドライブした感想だが、なにしろ現車は驚くほどコンディションがいい。エクステリア、インテリア共にオリジナルを保ち、それが素晴しく美しいのに加え、モーターもトランスも、デフもUジョイントも、サスペンションもステアリング系もすべてがヘルシーで快適だった。こんなサバイバーが日本国内にもまだ存在している事実を嬉しく思い、こういう出会いがあることに感謝し、それもこの仕事を続けているからこそと、改めて自分の歩んで来た道を確かめてそれを誇りに感じたのだった。

 


ホイールベースは114インチ(約2896mm)、全長×全幅×全高は215.5×78×52.6インチ(約5474×1981×1336mm)。前年型がそれぞれ114、215.7×78.5×52.6なので、実際にはほとんど同じサイズと言っていいだろう。ただし車両重量は前年の4168ポンド(約1890kg)から3909ポンド(1773kg)へと確実に減量を果たしている。重要なのは見た目が明確にシェイプしている点で、印象としてはかなりスタイリッシュに変身した。70年代のラグジュアリークーペならではのボディサイズを誇るモデルであることに変わりはなく、ウインドシールド越しに広大なエンジンフードを見る感じがなんとも懐かしい。


77年型クーガーのエンジンラインナップは302cuinV8が標準で、351および400ユニットがオプションとして用意されていた。現車が搭載するのはボア4.00×ストローク4.00インチの400cuinV8。圧縮比8.0:1、最高出力173hp@3800rpm、最大トルク326lbft@1600rpmという数字には少々寂しいものを感じるが、現車は極めてヘルシーであり、滑るようなクルージングフィールは実に快適だった。キャブレターはモータークラフト製の可変ベンチュリー型。なお、現車は点火系に一部MSD製のパーツを採用している。


精悍なフロントマスク。ラジエターグリルはバンパー下側まで延長されているのだが、これはXR7だけのデザイン。トランクリッドは明らかに従兄分であるリンカーン・コンチネンタル・マークVを意識したデザインだ


パッド入りのランドウトップとそれに合わせてカラーコーディネイトされたデラックスなモールディングはXR7ならではのアイテム。ピラーに与えられたクーガーのマスコットレリーフがチャーミング。


エクステリアカラーとコーディネイトされた“ジェイド”なる鮮やかなグリーンのインテリア。セパレート式のベンチシートやドアパネルはもちろん、ダッシュやカーペット、フロアマットに至るまでグリーンというところがいかにも70年代のAカーらしい。


オリジナルのリムはスチールの表面にウレタン製カバーを貼り付けた独特のアイテム。かつてポンテアックが造り上げたハニカムと同じ製法である。タイヤサイズはP215/75-15、当時のカタログではHR78×15と表記されている。