A-cars Historic Car Archives #045

'81 Chevrolet Corvette 

81年型シボレー・コルベット


Text & Photo : よしおか和

(Chevy Classics/2011 Dec. Issue)

 Feb. 7, 2024 Upload

 

 コルベットとひとくちに言っても長い歴史があるわけで、いつの時代のモデルにするか考え倦ねたが、今回は81年型を選んでみた。これを選んだ理由はいくつかあるが、まずは一時期の日本ではコルベットの中でも一番人気のモデルイヤーで散々もてはやされたものの、現在となっては素晴しいコンディションの個体を街で見る機会が本当に少なくなっている、ということが挙げられる。そんな中にあって、今回の撮影車は非常に美しくオリジナルの姿を保っており、この夏に開催された『もてぎスーパー・アメリカン・サンデー』では当コーナーの担当でもある本誌編集者がA-carsアワードにピックした個体でもある。さらに、筆者も最近改めてその魅力と価値を振り返り、この81年型を含む3代目コルベット(C3)の最終型が妙に気になっている、という点も大きな理由だ。

 結果として通算15年という超ロングセラーになったC3の中でも、いわゆる最終型と括れるのは80年型から82年型までの3年間。その3年の中にも細かなディテールの違いがあるものの、基本的なエクステリア・デザインは共通している。そして、これら最終型の魅力と人気の源は、まさにそのデザインにあるといっても過言ではないだろう。

 ビル・ミッチェルとラリー・シノダが作り上げた斬新なエアロクーペ、いかにもアメリカン・スポーツを象徴するマッチョなフォルムに繊細とも言えるアクセントを効かせたボディは、デビューイヤーの68年型にして既に完成されていたと筆者は考えている。しかしC3は時代のニーズに応えて細部のディテールを変更し、そのクライマックスでは「もうこれ以上はやりようがないだろう」という大方の予想を覆して更にダイナミックに、そしてゴージャスに変身を遂げて見せた。しかもそれは既にミッチェルらが引退した後の話なのだから、当時のGMスタイリング・ディビジョンのメンバーにはただただ敬服するしかない。その主たる変更部分はフロントマスクとテールに集中しているのだから、尚更デザインの妙というか奥深さを痛感させられるのである。

 さて、この最終型C3だが、たった3年の間でもそれぞれに違った特徴がある。まずは搭載エンジン。80年型では標準となるL48・350cuinV8と高出力型のL82・350cuinV8が前年から継承されたのに加えて、カリフォルニア州用として厳しい排ガス規準をクリアしたLG4・305cuinV8がラインナップされた。当時の日本への正規輸入車はこのカリフォルニア仕様であったため、日本のコルベット・ファンには80年型=305搭載と認識されている人も少なくないだろう。

 

 

 翌81年型では排ガス規制だけでなくCAFE法にも対応するために、省エネ型のパワーユニットが開発された。これはコンピュータ・コマンド・コントロール・システムという極単純な電子制御装置を併用したロチェスター製クアドラジェット4バレル・キャブレターを搭載した350cuinV8で、L81と称された。日本では再び350が復活したと喜ばれたが、その一方でL82はラインナップから外され、コルベットとしてはC1の初期型以来久しぶりにオプショナル・エンジンを有さないモデルイヤーとなった。さらに、このL81はあくまで過渡期のものであったことがまもなく証明された。本当にC3の最後の最後となった翌82年型ではクロス・ファイアー・インジェクションを搭載したL83・350cuinV8が登場したのである。ただ、このエンジンについてもどちらかと言うと悪評が多く、後のC4に継承されたものの2年目となる85年型からはBOSCHの技術を導入した新しいインジェクション・システムへと切り替えられている。それでも、現在アメリカではネオ・クラシックとしてのバリューがL83を備えた82年型および84年型に認められていることもまた事実である。

 さて、話を81年型に戻すが、その変更点はエンジン以外にもある。既に80年型でデフがアルミ製ケースを採用したDANA製に変わったことで軽量化が成されていたのだが、更にこの81年型ではリアの横置きリーフがカーボン製になったことでまたしても約30ポンド(約13.6kg)の軽量化を果たしているのだ(これにより79年型と比較すると200ポンド [約90.7kg] 近くも軽くなったことになる)。こうした軽量化は、時代の波によって非力にならざるを得なかったV8をカバーしてスポーツカーらしさを保つため……と言いたいところだが、事実としてはCAFE法の施行に伴ってMiles Per Gallon(=燃料消費率)の良いクルマに仕上げることが真の目的だった。なお、公式にはアナウンスされていないが、フレームの肉厚も部分的に薄くなっているようだ。

 もうひとつ、忘れてはならない大きな変更がある。それは正確には81年6月1日からのことだが、コルベットの専用アッセンブリー・プラントがそれまでのミズーリ州セントルイスからケンタッキー州ボウリンググリーンに移転したのである。実際にセントルイスでの生産が打ち切られたのは8月1日という記録があり、2カ月間は双方でラインオフしていたことになるが、普通に考えて新しい設備の下で組み立てられるコルベットの方がより完成度が高いと想像できる(これはあくまで感覚的な話になってしまうが、筆者が実際に乗り比べてみても、ボウリンググリーン製のコルベットの方がカッチリとしている、という印象を受けた)。

 また、ボウリンググリーンの新プラントでは塗装設備が充実したこともあって、この81年型からボディカラーに2トーンのバリエーションが追加された。この81年型の2トーンは4種類だったが、今回スポットを当てたのはまさにその1台。ベージュとダークブロンズの絶妙なコントラストがアダルトな雰囲気を醸し出していて、最高にエレガントなコルベットの姿を筆者のレンズを通してお見せできることがとても嬉しい。

 


81年型でボディカラーのバリエーションに追加された2トーン・ペイントは、シルバー/ダークブルー、シルバー/チャコールグレー、オータムレッド/ダーククラレット、そして撮影車のベージュ/ダークブロンズという4種類。

この2トーン・ペイントはボウリンググリーンからのみラインオフされたもので、色の境にあと2色をあしらったアクセント・ストライプが飾られるのも特徴である。


最終型C3の一番の特徴はこのフロント・フェイシアのデザインにある。バンパー一体式のノーズ部分においてラジエターグリル下の部分が最も前方に突き出すように変わり、よりモダンでグラマラスなイメージが強調された。


最終型C3のリアフェイシアはスポイラーが一体化したようなデザインが特徴的で、同時に全体のアールも変化し、いわゆるエプロン部分の処理も変わっている。そのせいで73年型以前のダックテールにやや近づいたようにも思える。


オリジナルのキャストアルミホイールは73年型から継承されてきたアイテムだが、79年型からそのオプション(RPO)コードが変わっている。これはディスクのセンター部分のカラーリングが変更になったせいであり、このタイプはN90で表示される。当時のオリジナル・タイヤはP225/70R15とP255/60R15の2サイズが用意されていたが、撮影車は後者を選択して現在に至っている。


インテリアはトリム・コード642のキャメルレザー仕様。ドライバー・サイドにはRPOコードA42の6ウェイ・パワーシートが装備される。


搭載エンジンはコンピューター・コマンド・コントロール・システムを備えるロチェスター製クアドラジェット4バレル・キャブレターを載せたL81・350cuinV8。アイドルエアのミクスチャーとイグニッション・タイミングが電子制御される仕組みで、キャブレター自体はプライマリー側が従来よりもひとまわり小さく設計されているのが特徴だ。そして言うまでもなく、これは燃費向上を目的に採用されたものだ。バルブカバーはマグネシウム製。エキゾースト・マニフォールドはステンレス製でチューブラータイプ、すなわちヘダースとなっている。撮影車はデストリビューターカバーにアフターマーケット製パーツを採用する以外、オリジナルのコンパートメントを保っている。このL81のカタログスペックは最高出力190hp@4200rpm、最大トルク280lbft@1600rpmで、圧縮比は8.2:1となる。