A-cars Historic Car Archives #041
'69 Shelby GT500KR
69年型シェルビー・GT500KR
Text & Photo : James Maxwell
(Muscle Car Review/2007 Aug. Issue)
Jan. 9, 2024 Upload
1968年、キャロル・シェルビーはひとつのトリックを用いた。彼のチームが製作するGT500ドラッグレーサーに428CJ(Cobra Jet)を搭載したのである。このマシンに付けられた名前はKR……King of the Road。68年ミッドイヤーに投入されたこのGT500KRは、68年アーリーモデルのGT500よりも御しやすい428エンジンを搭載していたことがなによりの特徴だった。
428CJエンジンは、各部に厳選されたパーツが使用されていた。エンジンのボトム部分は基本的に428ポリス・インターセプターのもので、ボア4.13×ストローク3.984インチという仕様。これに406やローライズ・タイプの427エンジンが採用していたシリンダー・ヘッドが組み合わされた。高いパフォーマンスを引き出すこのヘッドは、2.34×1.34インチという大径ポートを有し、バルブ径はインテーク2.06、エキゾースト1.62インチというもの。マシーン仕上げされたドーム型ピストンは圧縮比10.6対1。ピストンピンはフル・フローティング・タイプとされ、コンロッドボルトも32分の13インチという大型のものが使用されていた。
ハイドラリック・タイプのカムシャフトのプロファイルは、リフトがインテーク0.481インチ、エキゾースト0.490インチ、デュレーションは290度。キャブレターはホーリー735cfmの4バレルで、ポリス・インターセプター仕様となるキャストアイアン製インテークの上にこれが載った。さらにエキゾースト・マニフォールドも、抵抗の少ないタイプのものが組み合わされていた。最高出力は335hp@5400rpm、最大トルクは440lbft@3400rpmである。
この1968年より、シェルビー・マスタングはミシガン州にあるA.O.Smith Companyにおいて製造されるようになった。68年モデルは67年型と似ているものの、よりアグレッシブなスタイルとなり、明らかにスタンダードなマスタングとは異なる外見を持っていた。また、この68年型より、営業的には“シェルビー・マスタング”ではなく“シェルビー・コブラ”と呼ばれるようになった。同年にはアルミボディを持つ2シーターのコブラは生産を終えていたが、恐らくは営業戦略的に“コブラ”のネーミングを生かしておきたかったのだろう。
フロントマスクを見ると、まずファイバーグラスによって延長されたノーズと、S-H-E-L-B-Yと1文字ずつ独立したように入るスクリプトが目立つ。グリルに備える2基の長方形ドライビング・ライトも特徴的だ。エアスクープを持つファイバーグラス製エンジンフードの下にはラムエア・システムを備えている。
ボディサイドでは、ドアとリア・ホイールの間にスクープを備えるのが特徴的。なお、Cピラーにもエアベントが備わるのはファストバックモデルに限られる。サイド・ストライプもシェルビーのアイデンティティたる部分だが、ボディカラーがホワイトの場合のみブルーのラインが入り、他のボディカラーに対してはブラックのストライプとなった。
リア・ビューでは、ファイバーグラス製のスポイラーが特徴的。S-H-E-L-B-Yのスクリプトが入るのはフロント同様だ。さらにシーケンシャル・タイプのターン・シグナル・ライト、クロームのエキゾースト・チップ、ポップ・オープン・タイプのフューエル・キャップなど、どこから見てもノーマルのマスタングには見えない仕上がりを見せている。
同年よりミシガンで製造されるようになった大きな理由は、各所に採用されるファイバーグラス製パーツにある。カリフォルニアにあるシェルビーのファクトリーでは手作業でこれらを製造していたのだが、ミシガンならば金型を用いて高品質なファイバーグラス・パーツを製造できたのである。
室内に目を移すと、ロールバー、巻き取り式のショルダー・ハーネス、センターコンソールに備わるスチュワート・ワーナー製の2つのゲージ(油圧計と電流計)が目を惹く。なお、68年型シェルビー・マスタング(GT350、GT500、GT500KR)のインテリアは、同年型マスタングのデラックス・インテリアが採用されている。
パワーステアリングとパワー・フロント・ディスクブレーキ、前後の可変式ショックアブソーバーなども標準で装備したアイテム。ビッグブロックを搭載したシェルビー・マスタングはヘビーデューティ・サスペンションを標準装備とし、さらにGT500KRでは、リアのドラムブレーキも大型なものとされた。ポジトラクションもスタンダード。エアコンは持たない仕様だった。
さて、そろそろ取材車について触れることにしよう。写真のGT500KRは、ルイス・カーライルというオーナーがサンフランシスコにある有名なフォード・ディーラー、ギャルピン・フォードから購入したもので、933台が製造された68年型シェルビーGT500KRの中の1台である。細部においてスタンダードのGT500KRとは異なる部分が見受けられるが、これについては後で述べよう。まずオプションとしては、オートマチック・トランスミッション、エアコン、ティントグラス、AMラジオ、チルトステアリング、可倒式リアシートなどを選択している。
カーライル氏が亡くなった後の1987年に売りに出された取材車だが、その時点での走行距離はわずかに6237マイルだった(現在でも6727マイルに過ぎない)。自動車および飛行機のコレクターだったカーライル氏は、よりレーシーな仕様を求めたようで、本来ならばマグホイールかオプションのシェルビー製10スポーク・アロイホイールとなるところだが、最初からアメリカン・レーシングを注文。ステアリングホイールにもこだわり、敢えて67年型のステアリングホイールに変更したという。
そういった特徴も踏まえたうえで、取材車はオリジナル・コンディションを忠実に保っている。オリジナルと異なる部分といえば、バッテリーとオイル・フィルター、そしてタイヤくらいのものだろう。他はすべてギャルピン・フォードからデリバリーされた時のままの状態にある。このGT500はディーラーからすぐに海外(アフリカ)に渡り、その後アメリカに帰ってきたというヒストリーを持つが、それにしては状態は悪くない。
現在取材車を所有するのは、ノース・ダコタ在住のマッスルカー・コレクター、ビル・ワイマン氏。オリジナルの価値、サバイバーの価値を理解する氏は、このクルマに対して全く手を加えることはしていない。ただ、純粋に所有することに徹している。
クルマのヒストリーを話し終えた彼が、撮影のためにガレージの外へクルマを引っ張り出す。火が入った428CJのサウンドは、マッスルカー・ファンにはたまらないものがある。
撮影を終えた後、われわれはそのままマスタングに乗り込み、ストリートに出た。しばらく走り、水温計の針が上がったのを確認したところで本格的にアクセルを踏み込み、この日はじめてセカンダリーを開く。428CJが本当の実力を示す瞬間。シートバックに背中が沈み、GT500KRはフロントを持ち上げて加速していく。荒々しいエンジン・サウンドは、サバンナで牙を研ぐ猛獣を想像させる。ウィンブルドン・ホワイトに身を包んだ野獣。実際にアフリカを走っていたこのGT500KRには、そんな形容が相応しい。
シェルビー・マスタングは68年型でフロントエンドを一新。フロントグリル内にはドライビング・ランプ(Lucas FT8)が入り、新しいファイバーグラス製エンジンフードにはエアインテークをツインで備える。また、ラジオのアンテナはリアに移動されている。
エンジンフードを裏側から見ると、フード先端のスクープからエアクリーナーまでの空気の流れがよくわかる。
この68年型から採用された新エンジンフードは上面左右にルーバーが備わる。これはエンジンルームの熱を逃がすためのものだ。
エンジンルーム一杯に収まった428CJ。ブラックのアルミ製バルブカバーはコブラジェットならではのものだ。撮影車は、ホース、ベルト、クランプ、スパークプラグ、プラグワイヤーなども含めてファクトリー・オリジナルの状態という驚くべきコンディション。唯一交換されている部分はバッテリーで、それ以外にエンジン、そしてエンジンルームにも一切手が入れられたことがないという。
シーケンシャル・タイプのテールレンズも68年型シェルビーの特徴。これは65年型サンダーバードのアイテムを組み合わせたものだが、このテールレンズの採用によってシェルビー独特のスタイルが生まれている。オリジナル・オーナーは、取材車を購入してすぐにアフリカに運んだ。リアフェイスに備わる楕円形のステッカーおよびプレートはオリジナル・オーナーによるもので、EAKはケニア、EATはタンザニアを意味している。実際に取材車は野生公園を走ったこともあるという。
COBRA JETの文字とコブラのマーク入ったポップアップ・タイプのガスキャップは68年型シェルビーでもレイト・モデルに限った特徴。アーリーモデルにおいてはShelby Cobraの文字が入っていた。
インパネ、センターコンソール、インナー・ドアパネルなどにあしらわれたウォールナット・ウッド・トリムが特徴的。センターコンソールに備わるスチュワート・ワーナー製の補助ゲージ(油圧計と電流計)はシェルビーのコブラジェット・パッケージに含まれるアイテム。グローブボックスの右端にはCobra Jetのエンブレムがあしらわれる。インテリアカラーはブラックとサドルタンの2色が用意されていた。なお、ウッドリムのステアリングはオリジナル・オーナーのオーダーによってディーラーでインストールされたもの。
140mphまで刻まれたスピードメーターもコブラジェット・パッケージに含まれるアイテム。オドメーターが示す6727マイルはオリジナル・マイルである。
取材車が履くのはアメリカンレーシングのトルクスラスト。オリジナル・オーナーの意向により、ディーラーから出荷される時点でこのホイールが装着されていた。オリジナルのタイヤはグッドイヤーのE70×15だったが、現在はBFGのラジアルT/A(P215/60R15)を履く。
トランク内側には、お約束でもあるキャロル・シェルビーの肉筆によるサインが入っている。実は取材車は1年のほとんどをラスベガスにあるキャロル・シェルビー・ミュージアムで過ごしている。