A-cars Historic Car Archives #023
'70 Dodge Charger R/T 426HEMI
70年型ダッジ・チャージャーR/T 426HEMI
Text & Photo : James Maxwell
(Muscle Car Review / 2006 Jan. Issue)
Aug. 30, 2024 Upload
コカ・コーラのボトルを思わせる様なセクシーでグラマラスなボディラインが特長の1968~70年型ダッジ・チャージャー。当時のデトロイトでは現在よりも多くのメーカー、ブランドが鎬を削っており、モデル数も断然多かった訳だが、その中でも突き抜けてクールな存在だったと言っても過言ではないだろう。今日でもこの時代のチャージャーをMOPAR史上最高のルックスと評価するエンスージアストは少なくない。
ビル・ブロンリーの手によりデザインされた68~70年型チャージャーは、コロネットのBボディ・シャシーをベースとしつつも完全にコロネットとは別物のマシンに仕上げられた。流れるような美しいボディラインが作り出す、フロント下がりのアグレッシブなスタンス。チャージャーのスタイリングにおける最大のポイントはまさにそこに尽きるだろう。さらにそのパフォーマンスを強調すべく、ルーフにも様々なアイデアが活かされている。シャープにカーブするサイドガラス、奥まった位置に備えられたリアウィンドウ、そして特徴的なCピラー。これらが組み合わさることで角度によってはファストバックのように見える(実際にはファストバックではない)チャージャー独特のデザインが生まれたのである。
フロントエンドは長く、低く構えたフード・ラインではインテークが目を惹く。点灯時のみカバーが開いて姿を現すヘッドライトは奥まったフロントグリルに隠されている。そのグリル下部にはポジション兼ターンシグナルレンズをセット。このほか、ラウンド・ホイールアーチ、ワイドなリアフェンダー、レーシングスタイルのフューエルリッド、ボディ一体のリア・スポイラーなども当時はあまり見掛けない特徴的な部分だった。
一方インテリアは、戦闘機のコックピットを思わせるようなデザイン。150mphまで刻まれたスピードメーターを筆頭に、ドライバー重視のメーター類やズラッと並んだロッカータイプのスイッチが気分を高揚させる。元をたどればコロネットをベースとして誕生したチャージャーだが、コンバーチブルが作られなかったなど、他のBボディとは一線を画す存在だった。
R/Tエンブレムはハイ・パフォーマンス・グレードの証だが、68~70年型チャージャーには2種類のエンジンが用意された。標準搭載されたのは375馬力の440マグナムで、オプションとして426HEMIが選択可能だった(70年型では390馬力を発する440シックスパックも追加されだ)。HEMIパッケージにはカーターのデュアル・キャブレター、ビッグ・バルブ、エキゾースト・ヘダース&デュアル・エキゾーストなどが含まれていた。サスペンションは“ヘビーデューティ・トーション・エアー”が標準装備された。これはトーションバー、スウェイバー、ショックアブソーバー、リーフスプリングの全てヘビー・デューティ仕様となるパッケージ。前後ドラム・ブレーキにF70×14タイヤがスタンダードだが、オプションでパワー・ディスクブレーキと7jホイールにマウントされたF60×15タイヤが用意された。
通常、チャージャーの保障期間は5年/5万マイルだったが、HEMIエンジンだけは1年/1万2000マイルでオリジナル・オーナーのみが保障対象だったというのも面白いポイントだ。
その美しいデザインでも、パフォーマンスでも評価を高めたチャージャーだが、TVドラマや映画に登場したことでその知名度が大きく向上したことも事実である。特に『Dukes of Hazzard』は、チャージャーを強烈に印象付けた番組だった。これは79~85年に放映されたTVドラマ・シリーズなのだが、そこに登場した、ドアに“01”のゼッケン、ルーフ一面にアメリカ南部旗が描かれたオレンジの69年型チャージャーは、まさしくTVスターとなった。今現在に至っても、これだけ多くの人々の脳裏に焼き付いているクルマは少ないだろう。ちなみに、近日公開予定(編集部注・2005年7月時点の話)であるジェシカ・シンプソン主演の現代版『Dukes of Hazzard』にも当時と同じ仕様の69年型チャージャーが登場するそうで、こちらはMOPARパフォーマンスのHEMIクレートモーターを搭載して当時のようなカーチェイス、ジャンプといったハードアクションを見せてくれるという。
チャージャーを語るにあたって忘れてはならない映画がもう一作ある。それはスティーブ・マックイーン主演の『ブリット』だ。アメリカ車のファンなら誰もが知っているこの68年制作のクライム・アクションは、スティーブの操るマスタングと殺し屋の乗る真っ黒な68年型チャージャーがサン・フランシスコの街中で激しいカーチェイスを展開する。後にこのカー・チェイスは伝説となり、現在まで語られ続けているのはご存知の通りだ。
話をチャージャーに戻そう。68~69年型チャージャーはルックス的にかなり似ているのだが、70年型になってマイナーな改良が行われた。最も目立つ違いはフロントバンパーである。この70年型からグリルを一周するデザインとなり、テールライトも車幅いっぱいにまで広げられた。また、R/Tモデルにはドアにダミー・スクープがおごられ、サイド・ストライプもしくは従来と同じバンブルビー・ストライプが用意された。イグニッションからキーを抜き忘れるとブザーが鳴る機能もこの70年型から装備された。
こうして改良された70年型チャージャーだが、68年型が9万6100台、69年型が8万9700台という販売台数を記録したのに対し、70年型は4万9768台(内R/Tが1万337台)と大きく落ち込んでしまった。その理由はダッジが同年にデビューしたEボディ、チャレンジャーのマーケティングに力を入れ過ぎたたことによるものだといわれれている。そしてこの70年型チャージャーのうち、HEMI搭載モデルはアメリカ向けに112台(マニュアル56台、オートマチック56台)、カナダ向けに12台が製造されただけだった。
車重が2トン近くになるHEMIチャージャーだが、決して遅くはなかった。67年にカー&ドライバー誌が行ったテストではクォーターマイルを13.5秒で駆け抜け、0-60mph加速4.6秒、トップ・スピードは約156mphという数字を残している。このテストに使用された車両はオートマチックでリアエンドは3.23ギアだったというから、HEMIチャージャーが只者ではないことがわかるだろう。
さて、今回紹介する“トップバナナ”イエローの70年型チャージャーだが、そのヒストリーを追っていくと非常に面白い事実が判明した。このクルマを当時新車で手に入れたのはサンディエゴに住んでいた15才の少年だったのだ。しかも426HEMI&4スピード・マニュアル搭載のスペシャル・オーダー。その少年はさらに大容量ラジエター、シュアグリップ・デファレンシャル、3.54ギアのDANAリア・アクスルといったオプションもチョイスしていた。
他のオプションを挙げると、パワーステアリング、パワーウィンドウ、パワーブレーキ、タコメーター、時計、各ランプ類(灰皿、トランク、グローブボックスなど)、8トラック・ステレオといったところ。シートはバケットなのだが、デートのときにちょっと困ると考えたのか、ベンチシートのように出来るセンターシートクッションのオプションも選択されていた。
70年型チャージャーにはひと際目を惹くボディカラー=ハイインパクトカラーがいくつも用意された。プラムクレイジー・パープル、サブライム・グリーン、ゴーマンゴー・オレンジ、HEMIオレンジ、パンサーピンク、そしてトップバナナ・イエロー。撮影車はそのトップバナナ・イエローにブラックのバイナル・トップが組み合わせられたクールな一台だ。
1970年の夏にこのチャージャーは納車された。それから数カ月の間に少年は実に6000マイルの距離を走った。だがそこまで走ったところでチャージャーは下取り車としてディーラーの手に渡り、すぐに中古車店の店頭に並べられた。そして1971年2月17日に南カリフォルニア在住のリー・ハンコックという男性がこれを入手。そしてチャージャーはリーが亡くなるまでの29年間、走らされることなく室内保管されたのだった。
リーが亡くなって以降は何人かのオーナーを経た後に、ノース・ダコタのマッスルカー・コレクター、ビル・ワイマンがこれを所有することになった。
このチャージャーの存在を聞きつけてワイマンの元を訪れたのが、アリゾナ州在住のアル・ジェンセンだった。彼は熱烈なチャージャー・マニアで、68~70年型を乗り継いできた人物でもある。ワイマンはこのチャージャーを売りに出してはいなかったのだが、ジェンセンは熱狂的にアプローチを続け、ワイマンは根負けする形で2005年夏に譲渡に同意した。
入手後に15歳のオーナーからはじまったこのチャージャーのヒストリーを知ったジェンセンは、改めてこのチャージャーを所有することを光栄に思ったという。
「自分はこのチャージャーの“管理人”みたいなものなんです。70年の夏にあの少年がこのチャージャーを注文したからこそ、いま私のガレージに止まっているんですしね」
そう話すジェンセンの夢はこのチャージャーとファースト・オーナー、そう、当時15歳だったウェイン・ガゴシアンとを再開させることだという。当時15歳だった少年も、現在では50歳を超えていることになる。35年前に自分が乗っていたチャージャーを目の前にしたとき、かつての少年はどんな表情を見せるのだろうか。
R/Tモデルにオプションとして用意された426HEMI。へミスフェリカル・チャンバー(半球形燃焼室)、大容量フューエルポンプ、デュアル4バレル・キャブレター、大径フューエルライン、デュアル・ブレーカー・ディストリビューター、ハイリフト・カムなどで武装した究極のハイパフォーマンス・エンジンである。最高出力は425馬力とされているがそれ以上の馬力を発してもおかしくない。70年のHEMIにはハイドラリック・リフターが採用され、排ガス規制に対応する為にキャブレターに手が加えられた。当時のオプション価格が648.25ドルと高価なHEMIパッケージだったが、その価値は十二分にあった。なお、チャージャーR/Tには70アンペアの寒冷地仕様バッテリーが標準装備された。
純正オプションのフード・ピン、パフォーマンス・ペイント&HEMIロゴのフードなどは、現在ではレアな装備として知られている。
ここに写っているのはW21オプションのラリーホイールだが、そのほかにもW23ロードホイールや様々なデザインのホイール・キャップが用意され、タイヤもF70x14とF60x15の2種類が用意された。
HEMI搭載車には“Hパイプ”システムの2.5インチ・エキゾーストが装備された。抜けが良い割には静かなマフラーも当時話題になったアイテム。
HEMI+4スピードと抱き合わせで付いてきたオプションのDANA60リア・アクスル。9.75インチという巨大なリア・エンドには4.10と3.54ギアが用意された。
ルーフに貼られたバイナル・トップのオプション価格は100ドル。ドアに設けられたダミースクープは70年型のみが備えるアイテム。そのスクープの上方に付く同色サイドミラーもレアなオプションのひとつ。
R/T全てにおごられた150mphのスピードメーターと木目調のダッシュ。70年型のバケットシートはハイバックになり定員は5名。オプションの“バディ・バケット”と呼ばれるセンター・シート・クッション装備車は定員6名となる。4スピード・マニュアルには「ピストル・グリップ」シフターがセットされる。これが非常に握りやすい。
AMラジオ付き8トラック・ステレオもオプションアイテム。ダッシュには3つのスピーカーが埋め込まれている。パワー・ウィンドウも当時105.20ドルのオプションだった。