A-cars Historic Car Archives #009
'81 Pontiac Firebird Trans Am Turbo “Black Bird”
●81年型ポンテアック・ファイアーバード・トランザム・ターボ “ブラックバード”
Text & Photo : よしおか和
(Pontiac Classics/2014 Oct. Issue)
Jun.7, 2024 Upload
スクリーンに登場した劇中車のイメージがあまりにも強烈で、そのモデルを見たら否が応でもその映画を思い出すという例がいくつか存在する。さしずめ第2世代後期の黒いトランザムなどはその代表選手と言えるだろう。
77年に公開された『Smokey and the Bandit』はテンガロンハットが似合う伝説のトラック野郎がまさにその世代のトランザムで大暴れするストーリーで、邦題はそのままベタに『トランザム7000』と付けられた。その劇中車は同じく77年型で、フェイスリフトを果たして俗に“イーグルマスク”とか“キャッツアイ”などと呼ばれたモデルのスペシャル・バージョン。Tトップ付きのブラックボディにゴールドのストライプでアクセントを効かせ、さらにシェイカーフードの全面にこれまたゴールドの不死鳥を描き入れたド派手な1台だったが、これがバート・レイノルズが演じた主人公とこの上なくマッチしており、そのカーアクションシーンにはとにかく興奮させられた。当時渋谷でロードショーを観た筆者も帰りにすっかりその気になってしまい、公園通りをタイヤを鳴かせながら駆け降りたことをはっきりと記憶している。
実はこの世代のトランザムというと既に随分とパワーダウンを強いられており、特に日本への正規輸入車は排気量こそ6.6リットルあったものの、より圧縮比の低いオールズモビル製のV8を搭載していた。そのため、決して昔のようにパワフルではなかったはずなのだが、映画ではまるで“そんな事実など認めるものか!”といった風に描かれていおり、凄くワイルドなモンスターマシンという印象だけが残っている。
『Smokey and the Bandit』のヒットにより、それから4年後にパート2が製作された。こちらで“もうひとりの主役”として登場したのが、第2世代のファイナルモデルイヤーとなった81年型のトランザム・ターボ・スペシャルだった。これは一見すると前作の劇中車と同じだが、マスクのデザインは79年型から変更されていたし、エンジンフードをよく見ると例のシェイカーは姿を消していてその一部にパワーバルジが設けられているだけ、そしてその分ゴールドに羽ばたく不死鳥がひとまわり大きく描かれているのが特徴だった。
さらに特筆すべきは搭載エンジンがターボチャージドV8だという事実である。これはポンテアック製の301ユニットでリットル表記だと4.9リットル。ポンテアックV8にはビッグブロック/スモールブロックの区別こそないが、往年のユニットと比較すると明らかに小排気量になっていることが分かる。これは他でもない、当時いよいよ現実的になったCAFE法/ガスガズラーTAXに対応する目的で開発されたパワーユニットで、ターボチャージャーはあくまでもその非力を補うためのものであり、決して更なるパワーを追求して生まれたという性格のエンジンではなかったのである。
しかし、大ヒットしたあの映画の続編で使われたことが大きく影響して、そこにネガティブなイメージはまるでないのである。実際、今回久しぶりにこれをドライブしたのだが、撮影車両が極めて良いコンディションだったこともあって非常に快適でナイスなフィーリングだった。モデル末期らしくブレーキやサスペンション、そのほか細かな部分まで含め、トータルでの完成度が非常に高く、改めてこのモデルの魅力が確認できた次第で、コレクターカーとしてのバリューが上昇していることも充分に納得できた。マッスルとはひと味違う“ブラックバード”。いまこれをバンディットのごとく相棒に迎えるのも面白い選択だと思うのである。
※CAFE法とは? ガスガズラーTAXとは?
CAFEはCorporate Average Fuel Economyの頭文字を取ったもので直訳すれば企業平均燃費となる。俗にCAFE法とも呼ばれるエネルギー政策・保全法が米議会で可決されたのは75年の事、そしてその翌年にはジミー・カーターが大統領に就任した。そう、排ガス規制に続いて当時のアメリカ車にとってのもうひとつの難関は、カーター政権下で厳しく実施された省エネルギー対策だったのである。
この法規制の内容はというと、自動車メーカーが生産するモデルの燃料消費率が政府が定めた要求を満たす義務を負うというものであり、ひとつのメーカーが製造するモデルすべての平均値がそれに達しなかった際にはペナルティ(罰金)が課せられた。具体的に78年モデルイヤーより実施されたCAFE法では、18mpg(マイル・パー・ガロン=ガソリン1ガロンあたりの走行距離。日本流に言えば約7.6km/L)が基準値とされており、それが達成できなかった場合には、0.1mpgあたり5ドル×生産台数分の罰金を支払うことが定められていた。この基準値は年を追うごとに引き上げられ、それに加えて78年にはガスガスラーTAXの採用も決まり、80年型から平均燃費が15mpgに達しない新車に関してこの新たなる税金がメーカーから徴収されることになったのである。
このふたつのレギュレーションによってGMもフォードもクライスラーも、特に80年型からはmpgの平均値を下げるモデルを余分に生産する訳にはいかなかったのである。こうなると、真っ先に切られる運命なのが必要以上の大排気量エンジンを備えたHOTモデル。トランザムのエンジン排気量がここで一気に縮小された理由も充分に納得できるのである。
ターボ・トランザムのエンジンフードはシェイカーではなく、ドライバーサイドに比較的広範囲に渡るパワーバルジが設けられていた。火の鳥のデカールは従来よりもひとまわり大きく、隆起した部分にはドライバーから見えるようにターボチャージャーのブースト・インジケーターが備えられた。普段はいちばん左側が点灯していて、アクセルを踏み込んで行くと過給圧に応じて2つ目3つ目のランプが点灯するシステムである。
トランザムのエンジンと言えば400や455cuin、つまり例の映画のとおり7000cc級の大排気量が定番だったが、80年型からはシボレー製の305cuin(5.0L)やポンテアック製の301cuin(4.9L)が登場し、後者にはターボチャージャー付きのユニットも存在した。撮影車が備えるのがまさにそれで、ボア4.00×ストローク3.00インチ、圧縮比7.5:1、最高出力210hp@4000rpm、最大トルク340lbft@2000rpmを発生する
ターボトランザムのホイールは15×8インチの専用アイテムでデザインも独自のディッシュスタイルとなる。オリジナルのタイヤサイズは225/70-15で、撮影車はそのとおりのホワイトレターを履く。
インテリアも“ブラックバード”スペシャル独自の仕様となり、モケット地のバケットタイプシートはブラックだけでなくベージュのアクセントが効いてエクステリアカラーとのマッチングが図られている。インパネはトランザムならではのメタリックな化粧パネルで飾られるが、これもゴールドに処理されており、ブラック&ゴールドのコーディネイトによる個性をより強調している。
“ブラックバード”スペシャルは4輪ディスク・ブレーキに加え、HD(ヘビーデューティ)コイル&ショック、HDスウェイバー等を備え、この世代で最も充実した内容の足まわりを実現している。撮影車はローマイレッジのグッドコンディションで実にシックリとしたコーナリングフィールを味わせてくれた。