A-cars Historic Car Archives #006

'68 DODGE CHARGER R/T 426HEMI

●68年型ダッジ・チャージャーR/T 426HEMI


Text & Photo : よしおか和

(HEMI_The Ultimate MOPAR Muscle/2012 Sep. Issue)

 May 31, 2024 Upload

 HEMIとは“Hemispherical”の略で、半球型を意味する。なにが半球型かというと、燃焼室が、である。すなわち頭が丸く出っ張ったピストンの上にお椀を被せたような様子をイメージをして貰えばほぼ間違いない。その“お碗”の中心に点火プラグが刺さり、それを挟んでV字型に吸気と排気のバルブがレイアウトされるのだ。

 この独特なデザインのシリンダーヘッドを持つHEMIエンジンは高出力を発生し易いというメリットがある一方で、生産コストが高くつく、使用燃料のオクタン価が高くなくてはならない、バルブトレインが複雑になりノイズも大きくなる、といった問題があり、かつては航空機やレースカーなどにしか採用されないものだった。しかし第二次大戦中に戦闘機用HEMIエンジンの製造を手掛けていたクライスラーは、その技術を乗用車に応用すべく40年代後半に開発をスタートさせた。そして50年代の初頭、クライスラー・ニューヨーカーにファイアーパワーなるHEMIユニットを搭載してそれを実現したのである。

 これに続いてダッジやデソートでも若干仕様変更したHEMIエンジンをラインナップするようになり、クライスラーの高性能V8=HEMIというイメージが定着しかけたが、それと並行して開発が進められていた従来のウェッジ型ヘッドを持つV8エンジンがHEMIに劣らないパワーを備えたことで、58年型から一旦HEMIエンジンは姿を消してしまう。しかし、水面下において研究と開発は続けられており、64年には純レース・エンジンとしてHEMIエンジンが復活を遂げる。それが426cuinのコードA864で、これはNASCARで勝利することを目的に開発されたものだった。

 このA864の投入は大成功を収め、同エンジンを搭載したマシンは64年シーズンにあらゆるコースでレコードを塗り替えて勝ち続けた。ただ、あまりに速過ぎたためNASCAR側は危険と判断し、翌65年シーズンからはレギュレーションを変更してHEMIエンジンの使用を禁止してしまう。これに抗議してクライスラーは65年シーズンのレースをボイコット。64年のチャンピオンであるリチャード・ペティをはじめとするスター・ドライバーたちの欠場にファンも納得せず、結局NASCARは条件付きで再びHEMIエンジンの使用を認めることにした。

 その条件のひとつがホモロゲーション、つまりレースで使用するエンジンは市販モデルに搭載して規定台数を販売しなければならない、というルールだ。実はこれはクライスラーHEMIに対抗してフォードが作り上げたSOHC427が大きく関係していて、正確には67年から500台を販売することが要求された。しかし、クライスラーは既に66年型からこの426HEMIを市販車に搭載していた。半ばホモロゲーションの導入を予測していたのかもしれないが、かつてと同様に市販モデルにおいてもその実力を示したいという気持ちもあったのだろう。

 ショールームに飾られるモデルに搭載されたHEMIはレース用のHEMIとはやや仕様が違っており、具体的には圧縮比やカムシャフトのプロファイルを抑えてデチューンされていた。だが、それでも425hpというカタログ数値を誇るハイパフォーマンスV8であることに変わりはなく、それを搭載したモデルたちは現在MOPARマッスルと括られる中でも頂点に君臨する存在なのである。

 

 

  先に記したように、市販モデルに426HEMIが搭載されたのは66年型からのことだった。もともとこのエンジンはレース用。64年にデビューしたNASCAR用のA864は通称トラックHEMIと呼ばれ、デビュー直後にはNHRAでも採用された。だが翌65年には特にドラッグレースに相応しい仕様のA990が誕生し、こちらはドラッグHEMIとも呼ばれた。いずれもレースシーンではインターミディエイトに搭載されて活躍したことで、市販車用に開発されたA102(こちらは通称ストリートHEMI)もやはりインターミディエイトのBボディにセットされた。プリマスではベルベデアⅠとⅡおよびサテライト、ダッジではコロネットとチャージャーである。

 Bボディは68年型でモデルチェンジを果たしたが、もちろんそのホット・バージョンたちにはオプショナル・ユニットとして426HEMIが用意されていた。プリマスはGTXとロードランナー、ダッジではコロネットR/Tとスーパービー、そしてこのチャージャーR/Tである。

 NASCARやNHRAでの活躍が話題となり、HEMIカーはパフォーマンスカーの愛好家に大人気となった。当時のNASCARのホモロゲーションは500ユニットだったが、68年型としてHEMIを搭載してラインオフされた市販車はトータルで2000台を超えたのである。ちなみに68年型チャージャーR/Tで426HEMIを搭載したモデルは467台と記録されている。

 


搭載する426HEMIはストリートHEMIとも呼ばれるコードA102。純然たるレース用ユニットと比較すると圧縮比が10.25:1まで低下し、カムのプロファイルもかなりマイルドになり、吸排気系統の仕様も変わってはいるが、それでも最高出力425hp@5000rpm、最大トルク490lbft@4000rpmというカタログ数値を誇る。市販車に組み合わされたV8エンジンとしては他メーカーを併せても最強の部類に入るだろう。


バンブルビー・ストライプはこの68年型から採用されたアイテムで、ハイパフォーマンス・モデルにのみ与えられた。また、サイドマーカーレンズの装備が義務付けられたのもこの年からで、ダッジもプリマスもこの68年型では丸い小さなレンズを装着した。この丸型サイドマーカーは確認し難いという理由で翌年から大型化されたので、結果的に68年型ならではのアイテムとなった。


ドッグ・ディッシュ・キャップを備えたカラード・スチールリムにレッドリボンタイヤ。新車時のスタイルを保ってレストアされた個体からはマニアならではのこだわりが感じられる。


レッドのボディにホワイト・インテリアが美しいコントラストを作っている。撮影車はマニュアル・トランスミッションを備えるが、大きく曲がりくねらせてグリップ部分をドライバーに近づけたシフターのデザインが特徴的だ。


デファレンシャルは強靭なDANA60を装備し、シュアグリップ(ポジトラクション)が組み込まれている。