A-cars Historic Car Archives #005

'79 Chevrolet Camaro Z28

●79年型シボレー・カマロZ28


Text & Photo : よしおか和

(Chevy Classics/2014 Dec. Issue)

 May 24, 2024 Upload

 筆者が免許を取得してクルマに乗り始めたのが1976年、初めて自分の愛車としてアメリカ車、65年型マスタング・ファストバックを購入したのは78年のことだった。そしてそのマスタングを直す目的で自動車の売買を副業にしようと考え、ほぼ同時期に67年型マスタング、69年型マスタング、65年型バラクーダ、68年型カマロ、68年型GTOと次々に手に入れた。現代の感覚で見ればどれもコレクターカーであり、そんなモデルを同時に所有するなどなんともリッチなイメージだが、それぞれの個体が安価で、毎日カップ麺を啜りながらかなり無理をすればそうしたことも可能だった時代ならではの話である。付け加えて言えば、当時の筆者自身、60年代のモデルにこだわっていた訳では決してなかった。正直に書くと、本当はその当時ショールームに飾られていた新車のカマロZ28に憧れていたのである。そう、まさに今月撮影した車両がそれである。

 2ndジェネレーションのカマロは70年代をリアルタイムに青春を過ごしたAカーGUYにとって、最も親しみのあるモデルのひとつに違いないだろう。俗に“サメカマ”などと呼ばれる73年型までのカタチ、その後77年型までのスラントマスク&アルミバンパーのスタイル、そして78年型から最終81年型までのウレタンバンパーを採用してモダンに変身を遂げたルックスとそれぞれに魅力があるのだが、当時は全く手の出ない新車=高嶺の花だっただけに最後の4年間のカマロ、とりわけZ28には特別な思いを抱いたものだ。

 実はそのパフォーマンスを比べると、70年代初頭のモデルには全然敵わない……なんてことは当時の筆者は全く理解しておらず、たまたまGTOで新車(=79年型)のトランザムとシグナルグランプリをやって圧勝したことをきっかけにいろいろと学んだ。「なるほど、値段は安くても60年代後半のハイパフォーマンス・モーターなら新車なんてお呼びでないんだ……」などと、プアマンに有利な事実に改めて感動を覚えたりもしたのだが、それでも洗練されたコークボトルラインにスタイリッシュなストライプを描き、フードの上にも独特なエアダクトを備えた当時最新のカマロを目にする度に、密かに羨望の眼差しを向けていたのである。もちろん、人に訊かれれば「いまどきのZ28なんて圧縮比も低いしカムもマイルドだから遅くて興味ないよー」などと強がって答えてはいたが、内心ではそのドロドロとしたちょっと大人しい排気音が凄く恨めしかったのである(笑)。

 

 

 その後、およそ10年が過ぎた頃にまた軽い“アメ車ブーム”が巻き起こり、ウレタンバンパーのカマロは若者たちのカスタマイズの一番の標的となった。排気管を引き直し、エアショックでお尻を持ち上げ、ワイドリムにファットなホワイトレターをセットするスタイルは10年前とほとんど変わらなかったが、新車時に若者には手が出なかったZ28もすでにとても安価になっており、次々とにわかホットロッドのベースに採用されたのである。だがセンスも予算もないままに改造されたケースが圧倒的だったこともあり、それからの10年間で本来オリジナルでコンディションの良かったクルマの大半がジャンクヤードに葬られることになった。

 それから更に15年が過ぎようとしている現在、78~81年型のZ28は既にレアなコレクターカーとして認知されている。ましてオリジナルで美しい状態を保つ個体は極めて希少かつ貴重な存在である。今回撮影したのは日本に現存する個体の中でも1、2を競う素晴しいコンディションを誇る。また、これは当時の正規輸入車であり、細部に本国仕様とは異なるディテールがいくつか認められるのだが、撮影車は敢えてそれを尊重してそのままリペイントされているところが興味深い。正直言って当時の日本仕様への改善がクルマ本来の美しさを壊す行為だったことは否定できないと思うのだが、こうしてディーラー車のサバイバーである事実を主張するコンセプトには頑固なCAR GUYのこだわりが感じられる。筆者はこのカマロが新車から生き続けてきた35年という時間の重さをしっかりと受け止めながら、この日いつもよりちょっと丁寧にシャッターボタンを押したのだった。

 



新車時のオリジナル状態を保つ美しいエンジンコンパートメント。350モーターはコンプレッションレシオ8.2:1で最高出力は170hp。キャブレターはロチェスター製の4バレルが組み合わされる。


Z28の標準となるスチール製ラリーリムは全ての年式を通して共通のデザインだが、オプションのマグホイールに関しては年式ごとに変化があり、これは78年型と79年型だけに採用されたもの。オリジナルタイヤサイズはGR70-15となる。


サイドマーカーレンズは当時の法規に合わせてひとつ別に追加され、ミラーも安全規準に合わせたアイテムに交換され電動による調整が可能となった。どちらも本国仕様の方がよりスタイリッシュなのは誰もが認めるところだろうが、撮影車は敢えてディーラー車であることを主張するかのごとく、日本仕様のディテールそのままに仕上げられている。


ボディカラーに合わせて全6種類が用意されたストライプデカール。79年型では2色のコンビネーション・ストライプが採用され、撮影車のカーマインメタリックのボディにはゴールドのストライプが見事にマッチしている。ちなみに78年型と80~81年型ではこのストライプが3色のコンビネーションに変わる。


部分的にクロスを採用したカーマインのインテリアトリム。グリップ部分の表面が縄状に加工されたステアリングホイールはZ28ならではのオリジナルアイテムで、インテリアカラーと統一されているのも嬉しい。この79年型よりメーターパネルのデザインが一新されているが、これだけのことで随分とモダンなイメージが強調されている。